4-2

 苦々しげにそう言って、頭を下げる犬彦さんと、歓喜の声を上げる三条さん、その成り行きを静かにみつめる有理さんと、犬彦さんの怒りゲージがぐんぐん上がっていくのを悟って、おろおろするばかりの俺…。


 そんな修羅場を乗り越えて、兎にも角にもやっと一息つくことができたのが、今だ。


 雨はいつ止むのだろう。


 ベッドに腰掛けながら、なんとなくまた窓の外を眺めた。


 雨の勢いのせいか、木々の向こう側は煙ったように白く霞んでいて、奥行きがまったく掴めない。


 ここの洋館に辿り着いたときには、花々に囲まれたちいさな楽園のように感じたのに、視界が狭まり、薄暗くなった外を見ていると、まるで狭い箱の中に屋敷ごと閉じ込められたような気分がして、薄気味悪くなってくる。


 心細くなった俺は、そっと犬彦さんのほうを見る。


 有理さんが俺たちに用意してくれた客室には、ベッドが二つと、ふたり掛けのソファーが一脚に、サイドテーブルが備え付けられていた。


 犬彦さんはその革張りのソファーに深く体を預けるように座り、かるく目を閉じている。

 何か考え事をしているみたいだ。


 声をかけないほうが、いいだろうな。

 そう思って、静かに雨の降る音へと耳を傾けた。

 

 閉ざされた部屋の中にはふたりだけ、雨粒が窓ガラスを打ちつける音のみが微かに響く、深い静寂。

 ここだけが世界から切り離されて、孤立した世界のような錯覚になってくる。


 そんな夜の海のようにゆったりとした雰囲気を切り裂いて、突然、部屋中に電子音が鳴り渡った。


 犬彦さんは閉じていた目をぱっちりと開く。

 俺はあわてて、その音の出所を探した。


 そこには内線電話があった。

 急いで取ると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、あの華やかで明るい声だった。



 「江蓮くん? ねえ、ちょっと出てきてよ。

 退屈しているでしょう? 

 面白い話があるの。

 この屋敷の中を案内してあげる」


 

 

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