4-3

 そして指示通りに玄関ホールへと向かうと、そこには三条さんが待ち構えていた。



 「あら、お兄さんは一緒じゃないの?」



 「はい、部屋で休んでいます。

 今日は朝早くからずっと運転していましたし、ちょっと疲れたみたいで…」



 三条さんとの会話の内容を伝えると、犬彦さんはただ「迷惑をかけるんじゃないぞ」とだけ言って、また目を閉じた。


 これは行ってもいいという許可と同時に、自分は部屋にいる、という意味だととらえて、俺は一人でここへやってきたのだった。



 「本当なら外も案内したいのだけれど、この雨じゃあね。

 さあ、屋敷のなかを探検といきましょう!」



 昼食中もそうだったけれど、とてもノリのいい人だ。

 俺の腕をつかむと、三条さんはぐいぐいと屋敷の中を進んでいく。


 この、ホーンテッドマンション風の屋敷は、二階建てになっている。


 玄関ホールの中央には大きな階段があって、そこを上がっていくと左右で廊下が別れるのだが、左に進んだ西側に、俺と犬彦さんが泊まらせてもらう客室がある。


 二階には東側と西側あわせて客室が四つあり(そのうちのひとつ、俺と犬彦さんが使わせてもらう客室の隣に、三条さんの客室がある)そのほかにレストルームと倉庫室、それから左右で別れた廊下が奥でつながることになる北側全面に、この屋敷のご主人の書斎と、寝室があるそうだ。


 おそらく今もそこに、昼間は調子が悪くて眠っているという、ご主人のドラキュラ伯爵(もうすっかりこのイメージで脳内に定着してしまった)がいるのだろう。



 「まあ、二階はたいして面白くはないわね」



 三条さんは一階の廊下を奥へと進んでいく。


 一階には、最初に俺たちが通された談話室に、ゴージャスな食堂、厨房室とそれに隣り合った使用人室(ここに有理さんが駐在しているみたいだ)二階と同じくレストルームと倉庫室に、あとは浴場、遊技室、書庫があるそうだ。


 廊下を突き進んでいた三条さんは、ある扉の前でやっと足を止め、それを開いた。

 俺を連れてきたかったのは、この遊技室みたいだ。



 「どう? これなら少しは楽しめそうでしょう」



 「わあ、すごいですね」


 

 遊技室は、食堂とほぼ同じくらいの広さの部屋だが、ダイニングテーブルの代わりに、中央にはビリヤード台が備え付けられていた。


 壁にはダーツの的が掲げてあり、部屋の一角には、色とりどりの多種多様なお酒のボトルが棚に納められている。

 大人のムードが満載だ、いわゆるお洒落なバーとはこういう感じなんだろうな。



 「ビリヤード、やったことある?」



 「はい、兄に教わって少しだけ。

 あまり上手くはないですよ」



 こうして三条さんとのビリヤード勝負が始まった。

 互いにキューを持ち、球を打ち合いながら、穏やかに世間話をする。


 序盤から三条さん優勢でゲームは進んでいった。

 しなやかなフォームが様になっていて、そこからして、久しぶりにプレイする俺との力の差が見てとれるというものだ。

 彼女からしたら俺が相手じゃ、ほんの手慰み、まさに暇つぶしにしかならないだろう。


 勝負が終盤に近づいてきた頃、にわかに三条さんはこんなことを言い出した。



 「江蓮くんはさ、おばけって見たことある?」



 「え? おばけ、ですか?」



 いきなりの脈絡のない話題に一瞬、思考が追いつかなくなる。



 「そう、お化け…幽霊と言い換えてもいいわ。

 そういうの、これまでに見たことある?」



 「ええっと…。俺、霊感とかはないみたいなんで、見たことないです。

 そもそも、そういうのを信じてないというか…」



 「ふうん、そうなんだ…。

 実はね、わたし、見たことあるのよ。

 この屋敷のなかで…そう、この部屋でね」



 まるで誰かに聞かれてしまうことを避けるみたいに、俺と三条さんの二人しかいないこの遊技室の中で、ひっそりと声を潜め、俺の耳元で彼女はそう囁いた。

 

 

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