2-8
「三条さま!」
ナイスタイミングで玄関の外側から、有理さんが現れた。正直ホッとする。
三条さまと呼ばれた、この女性と有理さんは顔見知りのようだ。
「こんにちは、有理さん。おじさまのご気分はいかが?」
実に親しげに有理さんへ話しかける。
くるりと軽やかに有理さんへと向き直ったとき、肩までの長さでミルクティー色をした髪のやわらかくカールされた毛先がふわりと弾んだ。
女性誌に載っていそうな、いかにも高級ってかんじのダークブラウンのカジュアルスーツを着こなしている。
それは彼女のほっそりとしたスタイルのよさを強調させた。
スーツを着ているからといって固い印象はなく、むしろドレッシーだ。
胸元のすこし上、きれいな形に肌から浮かび上がっている鎖骨のあたりに輝くネックレスがほどよく上品な女性らしさを演出している。
ゴールドを基調とした細いチェーンから、たぶんダイヤだろう、雫のように細かな粒がいくつも連なってぶら下がり、揺れている。
猫のように大きな瞳に、長いまつげが陰影を添え、ミステリアスな印象を与えながら、少しツンとした形のいい鼻筋と、口角の上がった口元が人懐っこさを感じさせる、かなりの美人だ。
彼女のまわりだけ特別なスポットライトがあたっているかのように、すごく華やかな雰囲気が周囲に広がっている。
この人は集団のなかに紛れていても、必ず全員から注目を集めるに違いない。
もしも花に例えるとしたら、有理さんが、清楚で身近に親しみやすい朝顔タイプ。
対してこの三条という女性はとにかく、艶やかな薔薇のような人だ。
そんなふうに思うのは、彼女の形のよい唇が、薔薇のように鮮やかなルージュで映えているせいもあるかもしれない。
「出迎えが遅れてしまい申し訳ありません、三条さま。
ええ、今は寝室で休んでおられますよ、ご気分もあまり晴れないようでして…」
「そうなの…でもいつものことだし、晩餐には顔も出せるでしょう。
ねえ、見てほら、こんなにいろいろ買ってきちゃったのよ、車にはシャンパンもワインもあるの」
そう言うと彼女は誇らしげに、両手に持ついくつかの紙袋を少し掲げてみせた。
すべてブランド品のようだ。
つられて俺もそれらを眺め、その中に見知ったロゴをみつけてしまい、反射的に声にだして読んでしまった。
「ああっ、キルフェボンだっ!」
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