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 「この屋敷は、別荘と申しますか…主人の別宅のようなものなのです」


 

 広い玄関ホールを抜け、絨毯の敷かれた廊下を歩く。


 壁には高価そうな風景画や、よくわからない人物像などが飾られている。

 それらを眺めていると、脳内でまた箱根彫刻の森美術館のCMが再生される。



 「通常ですと、建物の維持管理が主なる仕事なのですが、主人が滞在している間は生活面での雑用も行います。

 ちょうど今、主人が在宅しているのですよ」



 俺と犬彦さんは談話室に通された。

 これまたアンティークな洋風家具にかこまれた、豪奢な空間だ。


 絨毯のひかれた広い室内の中央には、ガラスでできた背の低いテーブルが置かれ、その両側に革製の大きなソファが設置されている。


 有理さんに勧められて犬彦さんはそこへ腰を下ろしたが、俺は、壁にかけられている古風な風景画や、隅に飾られているひょうたんみたいに不思議な形をした花瓶に、怪獣のようにも見える青銅製の動物の置物なんかが気になって、失礼にならない程度に部屋の中をうろうろと歩き回った。

 

 外壁に面している西側はほぼすべてが窓になっている。

 その大きな窓から、外の美しい花壇を一望することができた。


 きっとこのホーンテッドマンションみたいな屋敷に住む主人とは、品あるドラキュラ伯爵のような人物で、ここから花壇の花々を愛でつつ優雅にアフタヌーンティー的なことを楽しむんだろうな。



 「主人には持病がありまして、むやみに他人と顔をあわせることなく穏やかに過ごせるという理由で、静養もかねて、このような山奥の辺鄙な場所に滞在することを好むのです…変わり者でしょう?」



 「いや、気持ちはわかる。ここは静かでいいところだ」

 

 

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