2-3

 しんと静まりかえった屋敷は、威厳めいた空気の他にどこか陰鬱な印象もあった。

 昼間は無人だけれど、真夜中になると西洋の怪物たちが優雅に夜会を始める、ホーンテッドマンションのような。


 犬彦さんはじっと俺を見ている。


 イライラした空気がなくなって、落ち着いてきたみたいだ。

 よし、いいぞ。

 俺はさらに話し続ける。



 「扉が開いたら、ドラキュラとか魔女とか、猫耳少女とかが出てきたりしてー…」



 「猫耳少女は、少しジャンルが違うのではないでしょうか」



 突然、背後から耳元で、人の声がした。



 「ぎゃあぁぁーーーッ!」



 驚いて、思わず飛びのき、犬彦さんの背後に隠れた。

 安全地帯に移ってから、その声の持ち主を凝視する。


 そこに立っていたのは、小柄な中年女性だった。

 俺の反応がよほど面白かったのか、上品にくすくすと笑っている。


 犬彦さんより少し年上だろうか、三十代後半か四十代前半くらいの、ほっそりとしたその女性は、ゆったりと丈の長いクリーム色のワンピースの上にエプロンをしており、庭仕事で汚れてしまったのか、そこには所々に土が付いていた。


 きっとここで働いている人なのだろう。

 ていねいで、きびきびとした所作は、客をもてなす側に慣れている人の雰囲気だ。


 ひとつに束ねてある黒髪は若々しく、全体的に小綺麗で、笑うと目元や口元にしわが浮かび上がるが、なかなか整った顔立ちをしていた。



 「お騒がせして申し訳ありません」



 背中にしがみつく俺を軽く小突いてから、犬彦さんは女性に状況説明を始める。

 車がパンクしてしまい、道に迷ってしまったこと、スマホが圏外なので電話を貸してもらえないか等々。

  

 その女性、有理さんは、この屋敷の管理人をしているそうだ。

 立ち話もなんだからと、彼女は屋敷のなかへと案内してくれた。


 

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