2-2

 俺がガキの頃、公園に植えてある梅の木の実を、うっかり口の中に入れてしまったことがあった。


 青梅は毒だ。


 瞬間、犬彦さんが飛んできて、俺の頭をぶっ叩くとすぐに吐き出させた。

 そんなわけで、俺自身は事なきを得たのだけれど、問題はその後だった。

 

 次の日には公園から、その梅の木がなくなっていたのである。


 根元から、ばっさりと切られていたのだ。


 俺はすぐに悟った。


 梅の木を切ったのは、犬彦さんだと。

 

 行き慣れた公園で、何かの拍子に、またその実が俺の口に入るとも限らない梅の木を、犬彦さんが切り倒したに違いない! 

 

 犬彦さんは何も言わなかった。


 しかし俺は知っていた。


 その日の深夜、犬彦さんが静かに家を出ていって、しばらく戻ってこなかったこと。

 今朝、その手には擦り傷があったことを。


 毎年、綺麗な赤い梅の花が咲く、立派な大木だったのに、俺のせいでそれは失われてしまった…。


 本当に申し訳ないと思う。

 でも問題はそこではない。


 重要なのは、勝手に公園の木を切り倒す行為はすなわち、犯罪だということだ。


 梅の木を切ったのは、間違いなく、犬彦さんだ。


 しかしいつだって、(恐ろしいことだが、ほかにもいくつか犬彦さんはこういった騒動を起こしている!)知恵者の犬彦さんは、自分がやったという証拠を絶対に残さない。


 だからといって、大切な家族である犬彦さんに、おいそれと犯罪めいた行為(というか、もはや犯罪)をさせるわけにはいかないのである。


 イラつきだした犬彦さんの気をひくために、わざとおどけて、俺はしゃべり続けた。



 「すげー立派なお屋敷ですよね、どんな人たちが住んでるのかなー、やっぱりとんでもない金持ちですかね。

 建物のイメージからすると、屋敷の主人はシルクハットかぶって蝶ネクタイとかしたヨーロッパの伯爵みたいな人かな。


 でもこんな山の中にある屋敷ってことは、人間じゃなくて吸血鬼一族とかの屋敷だったりしてー!」


 

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