2 森のなかの謎の洋館
山道を二、三十分ほど歩いて木々の密集地帯を抜け、やがて視界に広がったそこは、まるで楽園のような場所だった。
「すっげー!」
思わず走り出してしまう。
俺たちをここまで導いた鐘の姿が見えた。
背の高い、いかにもアンティークな木製の時計台があって、そのてっぺんに鈍い銅色の大きな鐘が備え付けられている。
そして時計台を中心に、花壇が何重にも広がっているのだ。
大きな花弁の、薄い赤色やオレンジ色の花々が鮮やかに咲き誇っている。
とても綺麗だ。
「あれですね、犬彦さん。ここ、箱根彫刻の森美術館に似てる」
「…いや、俺は行ったことないから知らないが、そうなのか」
「いやあ、俺もよくわかんないんですけど、CMだとこんな感じでしたよ」
そして、彫刻の森美術館のCMのナレーションものまねをする俺を無視して、犬彦さんは歩き出す。
時計台と花壇がある広場の奥には、これまた立派なお屋敷がそびえ建っているのが見えた、犬彦さんはそこを目指しているのだろう。
俺もその後ろをあわてて着いていく。
洋風のその屋敷は、かなり年月が経っているようで、玄関ポーチの色あせた木製の柱からは風格が感じられた。
大正時代とかに建てられて、そのまま文化遺産になっている元華族なんかの屋敷みたいだと思った。
もしここが美術館ではなくて、個人の家なのだとしたら、きっとものすごい金持ちが住んでいることだろう。
玄関入り口のでかい観音扉は閉ざされていた。
扉横に備え付けられている呼び出しベルを、犬彦さんは押す。
屋敷のなかの方で、ベルが鳴っている音がかすかに聞こえる。
しばらく待つ。
人がやってくる気配がない。
犬彦さんはもう一度ベルを押す。
耳をすませる 。
「…まさか誰もいねえのかよ」
犬彦さんがイライラしだした、まずい。
「いやっ、ちょっと留守にしているだけかもしれませんよ、昼時ですし、きっとすぐに戻ってきますって!」
ここまで来て誰もいないとなったら、それも好都合と、犬彦さんは扉をぶち破って屋敷に侵入してしまうかもしれない。
頼りがいがあって、サバイバル力の高い犬彦さんは、いざとなれば犯罪ギリギリの行動にでることも厭わない人だ。
なんとかなだめなければ!
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