1-6
「これは、鐘の音だな」
そう、トンビの声に混じって聞こえるそれは、鐘の音だった。
おそらく、学校とか教会とか、そういう公共の場にあるような、遠くまで響くタイプの高く澄んだ鐘の音。
「ってことは、犬彦さん!
この辺りに、人の住む建物があるっていうことですよね!」
犬彦さんは少し考える素振りを見せ、腕時計を一瞥してから答える。
「まだ日は高い。
今から一時間、鐘の音のした方に向かって山道を歩いていく。
何もみつからなかった場合には、一度引き返す。
いいな」
「はい!」
貴重品と飲み物を持ち、車をロックすると、鐘の音の出所を目指して出発した。
犬彦さんを先頭に、ざくざくと山道を歩いていく。
はっきりとした目的ができると、かなり楽観的な気分になってくる。
さっきまでの不安な気持ちが吹き飛んで、こんなハプニングも旅の醍醐味なのかもしれないなと、面白くなってくるから不思議だ。
犬彦さんの後ろをついて歩きながら、きょろきょろと辺りの珍しい野草などを眺めつつ、そんなことを考える。
けれどそう思えるのは、もちろん犬彦さんが俺のそばにいてくれるからだ。
犬彦さんの背中。
その背中を見ていると、いつだって、ものすごく安心する。
どんなことが起こっても、絶対安心だと感じるのだ。
しかしまさか、これ以上のハプニング…いや、大事件が、これから俺たちを待ち受けているだなんて、 ハイキング気分で山道を闊歩するこのときの俺には、想像もできるはずがなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます