第250話 力を込めろ

「人間人間にん、げん……」


 しばらく進んでいると女王の声が段々と小さくなり、姿もどこかに消えた。


 流れに乗って進む俺達との間の距離が広がっただけでなく、女王は意図的に姿を隠した、いや隠れるような行動をとる事になったのかもしれない。


 気付けば女王は渦に近づいていたから【1】を救いに行った可能性は高い。


「見えたぞ階段だ」


 後ろを気にしているといつの間にか目の前に上の階へ繋がる階段が。


 俺達は一列に並ぶと狭い階段通路へ水と共に入ってゆく。


 流石にリヴァイアサンはその体ではここを通れないようで変身する。

 さっきまでの仰々しい雰囲気は一変、見慣れた可愛らしいメロウに似た姿だ。


「お前、その姿って……もしかして若い時の私」

「た、たまたま見知ったメロウの姿になってしまっただけであって、別に意識してこの姿になったわけではない!」


 セレネ様はリヴァイアサンの姿を見て呟くと若干顔を赤くして黙り込む。

 そんな反応とは裏腹にリヴァイアサンは照れを隠す為なのかやけに早口でまくし立てる。


 笑っていいのかどうか……これはちょっと悩むとこだな。


「ならその姿はそのどうにかならない? その姿を見られるのはあんまり……」

「すまんが変えられん。ま、まぁたまには昔を思い出して、夢とか希望とかその時の感情を探るのも悪くないかもしれんぞ」

「……」


 それっぽい言葉を並べるリヴァイアサンにセレネ様はじとっとした視線を送る。


 流石のリヴァイアサンもこれには参ったのか、気まずそうにしている。


 関係としてはセレネ様の方がリヴァイアサンよりちょっと上っぽいな。


「そ、それよりシーサーペント以外は我よりも先に行けっ! 今からこの階段通路を目一杯凍らせて封鎖する。巻き込まれんよう注意しろ! シーサーペントは狭いと思うが顔をこちらに……むぅやっぱり狭すぎるな」


 リヴァイアサンの命令でトゲくんとシーサーペント達が1ヶ所に集まろうとする。

 だが、人間よりも遥かに体の大きいトゲくん達がこの狭い通路に集まれるわけもなく、ぎゅうぎゅう詰めになって辛そうな声を上げ始めた。


 これはちょっと俺の出番かも。


 俺は思いっきり空気を吸い込むと息を止めてシャボンの外に出た。


 そして拙いバタ足で何とかリヴァイアサン達の近くに寄ると、《透視》を発動させ右と左両方の壁をジャマダハルで突いた。


 すると壁は都合よくぽっかりと穴を開けてくれ、何とかリヴァイアサン達が顔を寄せられるスペースが出来た。


 これでリヴァイアサンの思い通りにいくは……ヤバイ息が――


 流石に水のなかで動きすぎたのがいけなかったのか、早くも息がもたなくなる。

 これじゃあシャボンまで戻れそうにない。


「もう、そうなると思ってた」


 体に回されたメアの腕。

 俺の行動はお見通しって訳ね。


「じゃトゲくん、強力なやつ頼んだわよ」

「があっ!」

「ほう。頼もしい個体もいるようだな。……よし! それではこれよりここを封鎖する。全員口を最大まで開き、喉に力を込めよ!」

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