第249話 口喧嘩

「さぁ今のうちに階段へ向かうぞ!」


 リヴァイアサンはメアともう1人のメロウを尻尾の先で包むと、その大きな体を波の様にうねらせた。


 すると水の流れはガラリと変わり、勢いも緩む。

 セレネ様を含むメロウ達もその事に気づいて、必死にバタつかせていた尻尾を無理のないスピードに戻す。


 人で言えば全力ダッシュから徒歩にしたみたいな感じだろうな。


 トゲくんもリヴァイアサンが敵ではないと瞬時に理解したらしく、大人しくシーサーペントの隊列の先頭に戻る。


 さっき見せた忠誠心といい、その度胸といい、普通のシーサーペントとは精神面的にも一線を画す個体に成長したんだなと感心せざるを得ない。


『助かりました。それに無事で良かったです』

『すまんかったな。我が無茶をした所為で負担をかけた。しばらくは大丈夫だと思うが【1】はそのうち復活する筈、急いでここを離れるぞ』

『もし【1】を拘束出来ているならいっその事止めを刺しては?』

『我も深傷を負った。【1】が生きている限りは足元を掬われる可能性がある。それに今の我の攻撃では【1】にダメージを与えるのは難しい。あれは硬すぎる』

『そうですか。そういえば【2】の方は大丈夫でしたか?』

『今回の騒動で【2】と、【3】も今の渦のに飲んでやる事で始末出来た。後は【1】と女王だけだ。さて、話は程々にして階段まで駆けるぞ』


 そう言うとリヴァイアサンはメアとメロウを俺達の元まで力強く投げ飛ばすと、水の流れを強めた。


 しかし瓦礫も同時に背後から迫り、恐怖感を煽ってくる。


「ゴミは我が掃除をするお前達は波の速さに合わせて泳いでいればいい」

「その口調相変わらずね」


 リヴァイアサンが声を出して全体に話し掛けるとセレネ様が呆れたように返事をした。


「やっぱりお主も来ていたか。とことん人間には甘いな」

「あなただってなんだかんだ言って手助けするところは変わってないわね」

「あいつの時はその強さを認めたから、今回は利害が一致したからに過ぎん。我はお主とは違う」

「全く、こんなに偏屈になるなら進化なんてさせなければ良かったかしら」

「我は偏屈などではない!今回はお前達の手助けにもなっている筈だというのにその態度……相変わらずの小言おばさんだな」

「……今おばさんって言った?」

「偏屈と言ったお主が悪い」


 子供のような口喧嘩が始まり、メロウ達の顔がなんとも言えない表情に。


 ま、まぁさっきまでの危機迫った空気感よりは何倍もましだけど――



「――私の人間はどこ? 人間、人間人間人間人間」



 微かに聞こえたこの声には聞き覚えがある。

 この数日嫌って程聞いたあいつの声。


 慌てて振り返るがその姿はまだまだ小さい。

 ただここまで声が聞こえているという事は、相当な大 声。

 怒り心頭で声も大きくなっているって事か。


「あそこは水の流れがここよりも緩いから直ぐにはここまで来れんと思うが……。まさか女王本人がやってくるとはな。【1】を回収して、襲ってくるかもしれんし……シーサーペントどもよ、この先でお主らの力も借りるぞ!」

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