第247話 渦
「ごぼ……」「もう1度とはいかんぞ」
溜めた空気を少し溢しながら【3】は体をうねらせる我の元に寄ると拳を握りしめた。
我はそんな【3】と再び飛んでくる瓦礫を尻尾ではたき落とした。
そして我は体を出きる限り一直線に伸ばし、【1】の動きを封じる為の行動に出る。
「これは目が回るから嫌いなんだがなぁ」
一直線に伸ばした体を徐々にスピードを上げて回転させる。 周りの水が泡立ち始めその水の流れは次第に渦を作る。
「もっと、もっと巨大で厚い渦を――」
渦を大きくしようと更に体に力を込めようとすると、泡の向こう側からゴツゴツとした片方の手が伸び、我の首付近を掴んだ。
我の体に生え揃う鱗は岩をも切り裂く。 先程の【3】のような攻撃ならまだしも、たかだか握力でこの鱗をどうにかしようというのは通常不可能。
だが、この【1】の手、指は鱗を剥がし我の地肌を確実に掴んでいた。
そのまま握り潰されるという事はないものの、喉の辺りに指がめり込み、痛みが走る。 それに呼吸が苦しい。
「が、あぁ……」「こいつ……」
【1】は泡から顔を出し、我を睨む。 息が苦しいのはこやつの方が上の筈なのに、わざわざ口を開け何かを伝えようとしている。
口の動きからして……『捕まえた』、か?
「この程度で我を捕まえられたと思ったか?腹立たしい。我も舐められたものだな」
体の回転速度を上げ、【1】の手を剥がしにかかる。
しかし【1】の手は剥がれるどころかもう片方の手もめり込ませてくる。
奴の目は充血して真っ赤。 もはや、こうしていることも辛い筈なのに……なんという執念。
掴まれた部分からは血が滲み、我もこのままでは太い血管を切られ、致命傷。最悪、呼吸が完全に出来ない状態にされる可能性さえある。
勝負は長く続かない。
「は、なせぇえええええええっ!!」「ごぼっ!」
我は回転を続けつつ【1】の体に噛みついた。 【2】を噛み殺した時とはまるで違う感触。
鍛え上げられた筋肉は我の鱗、並みに硬い。
これがシードンという種で最も強い個体の肉体……こやつの有利な地上での戦闘であればやはり我の負けだったであろう。
「ぐ……あ」「だが、この場は我の勝ちのようだな」
回転することによって生まれた遠心力と、体の限界に達した【1】という2つによって遂にめり込んだ手を剥がすことに成功した。
抵抗の意思はまだあるようで、じたばたと動く【1】はそのまま我の牙に腕を回して折って見せた。
勿論痛みはある。 しかし、ここまで来て我がそれごときで怯むわけがない。
「小賢しい。だが残念ながら我にはお前を直接殺してやるだけの攻撃力も気力も体力も残っていない。【1】お前はこの渦の中で溺れ死んでくれ」
我は【1】の体を離して渦の中に置き去りにすると、へろへろになった身体で白石輝明の元へ。
渦のせいで水の流れが激しくなっているが……白石輝明達がこっちに流れて来ている様子はない。
「無事でいてくれるよな?」
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