第246話 【1】の水遊び

「その首かっ切ってやるっ!!」


 我の『氷結リボルバー』から放たれる氷の弾を【1】がその口から吐き出す粘液で勢いをほどほどに殺す。


 そしてそれを【1】がひらりと避けると、後ろをつく【3】のシードンが弾を両手で挟んで潰す。


 元々の威力が残っていればあのまま手を吹っ飛ばしていただろうが、【1】の所為で手のひらから少量血を流す程度で済んでいる。


 この2匹で戦闘をする事が多いのか、お互いの力量をはっきり理解したコンビネーション。


 これでは【1】を押さえ込むどころか、【3】にさえいいように攻められてしまうかもしれん。


 出来ればメロウと白石輝明がフロアの出口付近まで移動してからの方が良かったのだが……。


「状況も状況だ。お前らを、フロアを飲み込むっ!」


 我は元の姿に戻ると波の中に入り、地下貯水湖の水を操作して地上に流れる水の量を増やす。


 波は更に高く、範囲を広げ、スピードも先程の比ではない。


 街中にあったシードンの死体や建物が水の中で動き周り、その色は次第に濁ってゆく。


 流石にこの水流で流されたらまずいと思ったのか、【3】は出口側を向き走りだそうとするが、そんな事をするのは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに向かってくる【1】。


 頬と肺に酸素を溜めているのだろう、頬と胸が張り裂けそうなほどパンパンに膨れている。


 その程度で対策出きると思われているのは流石に癪に触るな。


「我は我の目的を果たす。お前はしばらくこのフロアで水遊びでも楽しんでおればいいっ!」


 波が【1】にぶつかり、その体を飲み込んだ。

 水の勢いによって【1】はそのまま底に沈……みはせず、白い泡をたてながら、その足をバタつかせて我の元に近づいてきた。


 不格好な移動方法だが、流れに逆らうだけのスピードとパワーがある。


「流石だな。とはいえメロウほど自由には――」



 ――ポン。



 我がシードンとの距離を離さそうとすると、【1】は空気をリング状に吐き出した。


 その数は10。


 見たところ変わった様子はないが、わざわざ溜めた酸素を使うわけだからそれなりのスキルなのだろうとは思うが……一体何が狙いだ?


 吐き出された空気のリングを観察しながら後退をする。


 するとリングは伸び縮みを繰り返し、建物を形成していた大きな瓦礫をその中央に潜らせて、捕らえるように一気に縛った。

 そしてその瓦礫は水を得た魚のように恐ろしい早さで我の元に飛んできた。

 同じようにして他の瓦礫をも捕らえた【1】はそれを操り我の後退の道を塞ぐ。


 一斉に襲いかかる瓦礫。

 我は尻尾でそれをはたき落とすが何度も何度も瓦礫は襲ってくる。


 やはり【1】をどうにかせねば……このままでは波に飲まれた白石輝明達を出口へと運んでやる算段が――


「っがあ!」


 腹部に走る激痛。

 瓦礫ではない何かがぶつかった。

 いや、何かが勢いそのままに殴ってきた。


「……【3】をこう活かしてきたか」


 【3】を瓦礫の陰から分からないように飛ばしてくるとは……シードンの癖に上手いことフェイクを入れた攻撃を仕掛けてきおるな。


「やはり白石輝明達を気にしてばかりでどうにか出きる相手ではないか……すまんメロウ達、我の生み出す流れにどうか負けないでくれ」


 我はそう祈ると体を大きくうねらせるのだった。

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