第171話 だから

 ウィーン。


「インターチェンジみたいだな」

「なにそれ、おいしいの?」


 洞窟の中はネオン色の光で彩られ、バブル期のクラブを連想させていた。


 そしてその奥に見えたのは高速道路の入り口のような場所。


 これが女性が言っていたステーションなんだろう。


「えっと……1、9、1で指紋認証して」


 ステーションにはバーがかけられていて先に進めないようになっていた。


 女性はそれを退ける為なのか、横に設置されていたテンキーに似た機械のような物に数字を打ち込み、その脇に付いていた丸みを帯びた突起に触れた。


 まさかダンジョン内にこんな現代風なものがあるなんて……。


「よっし。この先からワープゾーンになるわ。ちょっと衝撃があるかもだから下をかまないように気を付けなさい」

「ああ。それにしてもこの機械? にワープゾーン。一体こんなの誰が作ったんだ? 凄い技術じゃないか」

「これに関しては人間の記憶を参考にしてそれでスキルと併用して作ったの。まったく、あの方は本当に凄いわ」

「あの方って?」

「集落があるって言ったでしょ。当然そこには集落の長が居て、人間への厳戒態勢を引いたのもシーサーペントの個人への配布を決めたのもその方よ。集落に着いたらまずその方のいる場所へ向かうから、粗相のないように」

「分かった」


 こんなものを作れるというのだから集落の長はそれだけ優れたスキルを持っている、或いは高いレベルなのだろう。

 

 それにしても『人間の記憶を参考にした』という事は記憶を消すだけでなく覗くか、吸い取るか、そういった事まで出来るという事。

 別にヤバい記憶がある訳じゃないが……少し怖いな。


「それでこれがワープゾーンか……」

「もしかしてビビってるの? あなた達って魔法紙で頻繁に移動してるんじゃないの?」

「魔法紙はちゃんと製品として安全が保障されているし、馴染みもあるけど……これは初めてだから」

「見た目は違うかもだけど構造は……ステーションと連動していること以外一緒よ。それに私が集落からここに来ているんだから安心に決まってるでしょ」

「それはそうか」


 ワープゾーンは巨大で白い岩が綺麗に一直線に断ち切られた後のような場所、それ全体を指していて、それを表すかのように周りには薄い光の壁が彩っていた。


 女性はそれに躊躇なく足を突っ込みそそくさと中央へ移動した。

 

 俺はシャボンで閉じ込められているので自動的に後をついていくのだが、内心ではまだ初めて見るワープゾーンに怖さを感じている。


「ん? 何にも起きない?」

「大丈夫そろそろよ」


 女性が口を開くと、光の壁がドーム状に変化した。

 そしてそれと同時に身体に圧力が掛かる。


 押しつぶされたりという程ではなく全身を指圧されている程度ではあるが、違和感は凄い。


「これで20分くらい待てば191階層、集落のある階層よ」

「20分で70階層から191階層か。凄い速さだな」

「ええ。でも20分あれば私の考えの説明が出来るわ」

「考え……。それって『リヴァイアサン』を倒す為の――」

「いいえ。倒さない。正確には野生の『リヴァイアサン』を倒すのは不可能。だから」

「だから?」

「『リヴァイアサン』をあなたの手で作っちゃえばいいのよ」

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