第170話 シャボン
「なんだこれ? ……硬い」
真正面に現れた透明で大きな泡。
表面は虹色に輝いている。
見た目は間違いなくシャボン玉だが、脚でつついても破ける事はなくそんな雰囲気もない。
「そんなおどろおどろしくしなくても大丈夫よ。これは攻撃スキルじゃないから」
「メロウ……というかあんたがそうなのか分からないけど、結構な数のスキル持っているんだな」
「私達は人間の特徴とモンスターの特徴を持っているからね。レベルを上げるだけで覚えるスキルだけじゃなくて、ポイントを割り振ったりしてスキルを覚えられるのよ」
「そこまで出来るのか。じゃあ、アイテムをどっからともなく出しているのも……」
「あなた達と同じよ。アイテム欄を使える。ただ容量は決まってるけどね」
ずっと気になっていたが、アイテム欄まで使えるのか。
集落で食料だとか貴重品を貯めておくのはどうしてるのかなって思ってたけど、それなら問題は無さそう。
逆にこれが強欲な人間にバレたら……。
「質問はもういい? 大丈夫だったらそのシャボンに思いっきり体を突っ込んで」
女性からピリッとした雰囲気が強く感じられたのでこれ以上言及するのは止めて、指示通りシャボンに突っ込んだ。
ある程度の力を掛けるとにゅるんと身体が中に吸い込まれ、その中に入る事が出来た。
身体がシャボンでぬめぬめする事はない。
それに中の空気環境は想像以上に快適だ。
女性が口から空気を入れ込んでいたからちょっと心配だったけど、これなら長い時間入っていても問題はなさそうだ。
「その中に入っていれば水中でも問題なく呼吸が出来るわ。それに私が動けば……」
女性が滑るようにして地面を移動すると、シャボンは少しだけ浮き、その後を追うように前進し始めた。
完全に自動で動いてくれるので、歩く必要もない。
「凄いなこのスキル」
「シャボンは磁力で引き付けられるように私自身を追従してくれるの。強度はそこそこあるけど、あんまり強力なスキルで攻撃し続けたりすると破裂するかもだから変な行動はしない事ね」
スキルの説明をするその顔はどこか誇らしげなのが普通の女性らしくて可愛らしい。
「……なににやけてんの?」
「え、いや、特に意味はないよ」
「……尚更気持ち悪いわね。あ、そろそろ海に入るわよ」
女性は勢いよく海に飛び込んだ。
そしてシャボンはそれを追って海に入る。
「本当だ。息が出来る。水も入ってこない」
「あんまり騒ぎすぎると水中のモンスターが襲ってくるかもだから気を付けなさいよね」
「全部の海中モンスターを手なずけてるわけじゃないんだな」
「そりゃあそうよ。数が多すぎても管理出来ないし、雑魚を手なずけても意味ないでしょ。雑魚は餌よ、餌」
海中に入ると何体ものモンスターが泳いでいるのが見えた。
幻想的な雰囲気に少し感動してしまう。
スキューバーダイビングってもしかしてこんな感じなのかも。
「それで海中が綺麗なのはわかったけど……」
「なんで海中に入る必要があったのか、でしょ。まぁ見てれば分かるわ」
女性はすいすいと泳ぎ、その先に見える洞窟へと向かっていく。
「あの洞窟に集落が?」
「違うわ。こんな上の階層にある集落なんて、レベルの低い人間にさえ狙われかねないわ」
「じゃあ、この先には……」
「下の階層に移動出来るステーションがあるわ」
「ステ――」
「そろそろ慣れたころでしょ? スピードを上げるわ。歯食いしばりなさい」
俺がステーションについて聞こうとしようとすると、女性は急激にスピードを上げてステーションに突っ込むのだった。
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