第167話 メロウ

「んんんむぅっ!!」

「「起きたっ!!」」


 しばらく眠りについていた俺は、すっきりと目を覚ました。


 目覚めの良さから察するに結構長い間眠ってしまったような気がする。


 それにアルジャンとルージュの反応からしても、大分待たせてしまった感がある。


 ちょっと罪悪感が……。


「アルジャン、ルージュ、俺は何時間……いやそれよりそっちの人って」


 眠りにつく前に見た女性がアルジャンとルージュの隣に座っていた。

 

 口には木を挟み込まれ、それをアルジャンとルージュの着ていた服の切れ端で固定されている。


 よく見れば腕も後ろで組まれ、拘束されて――


「その足……尻尾?」


 視線を下げると女性の下半身が人とは異なっている事に気付いた。


 青色の鱗にぴちぴちと音を立てる尻尾の先。


 この姿は俺の知っている物語でも有名な……。


『メロウ』


 女性の横に映った表記は耳馴染みの薄い名称だったが、意味は同じ。

 俺が知っているこのモンスターの馴染み深い別の言い方は、『人魚』。


 人間の言葉を使用していた筈だから、この子も通常のモンスターより知能が高い亜人というカテゴリーになるだろう。


 リザードマン以外に人らしい生き物がダンジョンに暮らしているとは……。

 

 という事はリザードマンの様に複数人から成る集落を形成している可能性もありそうだな。


「んんっ!! むむぅっ!!」


 口を封じられたメロウの女性はこちらを見ながら必死に何かを訴えかけている。


 さっきの歌の主がこの女性と分かっている限り、口の拘束具を外すのはリスクがある。

 だが、そんなリスクを負ってでも聞きたい事が俺にはあった。


 まぁ、この距離だし万が一の場合は何とか対処する事も出来るだろう。


「ルージュ、その女性の口に付けられている物を外してもらってもいいかな?」

「でも歌聞くとまた寝ちゃう……」

「そうなったら今度は直ぐにその女性を抑え込む。それに駄目でもまた2人がなんとかしてくれるだろ? アルジャンもルージュも俺がいないのにこの女性を拘束出来る位優秀で自慢の装備品だもんな」


 俺が褒めると、照れ臭いのか2人は頭を掻きながら口元を緩めた。

 

 純粋なのはいいけど、ちょろすぎて少し不安なのは俺だけだろうか。


「外すよぉ」

「うん!」


 ルージュはにやけながら『メロウ』に近づくと後ろに回り込んだ。


 そして拘束具を外す合図をすると、アルジャンがすぐに抑え込めるように身構える。


「ぷはぁっ!! お前らなぁっ!! 私のスキルが効かないからって調子に乗りやがって!! 私を怒らせたらどうなるか……この喉を犠牲にしてでもお前らの大切なご主人様の記憶を――」

「《透視》『瞬脚』」


 女性が自分の首に手を当て何かしようとしたので、俺は急いでスキルを発動させた。


 女性の急所は首の下、左右の鎖骨の丁度間の辺り。


 俺はそこ目掛けデコピンの要領で中指を親指で弾く攻撃を当てた。


「きゃあっ!!」

「今のだけでだいぶHPが削れたな。何かするようならもう1回、いやHPが0になるまで続けようか?」

「い、いやっ! そうやってそうやって人間は私達をまた……」

「……。人間に何かされたからスキルを使って追い払っていたってところか」

「……。そうよ。どうせお前も私達の事を聞きつけたからこのダンジョンに来たんでしょ?」

「……違うけど?」

「嘘っ! あの時の人間はあいつ、『一色虹一』からメロウの事を聞いて……私達の身体を」


 女性の身体が微かに震えている事に気付いた。


 詳しくは話してくれたわけじゃないが、なんとなく人間がメロウに対して行った行為はきっと……。


「痛かったろ? これを飲んで落ち着くといい。結構いいポーションなんだ。HPもすぐに元に戻る」

「えっ? あっ!」


 俺はそっと女生との距離を開けると、アイテム欄からポーションを取り出し女性へ向かって軽く放った。


「俺は白石輝明。そっちはアルジャンとルージュ。俺達はただ暑さ対策になるアイテムを探しにここに来た。ただそれだけなんだ」

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