第166話 ビキニ

「いっ! ああああああああああぁぁぁ!!!」


 パリンッ。


 氷の割れる音が響く。


 拳に刺さった氷の先端部分はこちらの勢いに完全に負け、貫かれる前に割れてしまったのだ。


「通った!」

「がぁっ!」


 そして俺の拳はシーサーペントの腹部に当たると、そこに大きな窪みを作った。


 その窪みが元に戻ることなく、見ればシーサーペントのHPは0になっていた。


「……勝った」


 ぼてっと汚く地面に着地すると俺は自分の拳を見ながら呟いた。


 高揚感からか右の拳は血を垂らしながらプルプルと震えていた。

 痛みは感じるがそこまででもない。


「「倒したぁっ!!」」


 アルジャンとルージュが凍った地面の上を楽しそうに駆けてやって来た。


 しばらく武器の状態だった事もあってか元気一杯みたいだな。


「あっ! 大丈夫?」

「血ぃ……痛そう」


 ルージュが俺の拳の怪我に気付くと、続いてアルジャンも心配してくれる。


 いくら楽しかったとはいえ、あんまり心配させてしまうようなことは控えないとな。


 ……楽しいか。

 俺も一色虹一や猩々緋さんの影響をしっかり受けているって事かな。


「大丈夫。ポーションもあるし、そんなに痛くない。よっと……。ぷはぁ! ほらな」


 俺はアイテム欄から高級なポーションを取り出して一気に飲み干した。


 みるみる内に傷口は塞がり、それを見た2人は安心したのかほっと胸を撫で下ろした。


「「ごはんっ!」」


 安心したからなのか、2人はシーサーペントまで走って行ってしまった。


「安心したら眠気がぶり返してき――」

「もうっ!! そろそろシーサーペントでやっちゃえると思ったのに!! ってあんた達勝手に食べてんじゃないわよ!!」


 出そうになった欠伸が引っ込んでしまった。


 このタイミングでキンキンと耳を劈く怒鳴り声はちょっと不愉快かも。


「「だーれ?」」


 もぐもぐとシーサーペントに齧りつきながら2人はその声の主に問いかけた。


「あなた達人間に名乗る必要はないわ! それに仲間からの情報だとどっかに隠れていたようだけど、あんた達2人には私達のスキルが向こうの人間よりしっかり聞こえてたみたいじゃない。ってことはそろそろ時間の問題。強がってんじゃないわよ!」



 きぃー。



 怒気の籠った声がさらに強まったと思ったら今度はあの音が聞こえてきた。


 甲高いのに、それなのに不快じゃなくて……心地がいい。


「ふぁ。や、ば」


 こんな状況だというのに一層強まる眠気。

 俺はそんな眠気に抗いながら、なんとか声の主の姿を捉えた。


 長い髪の女性。

 ビキニ型の水着のようなものを身に着け……足はシーサーペントの死体の所為で見えない。

 

 大きく口を開き、歌うような仕草をしているのはもしかして……。


「この声の主って……。ここから見る限り人間に見えるが……あっ、もう――」



「あぎゃっ!!」

「「うるさーい!!」」



 瞼が重く、勝手に閉じ始めた時だった。

 甲高いその歌声は鳴りやみ、代わって痛そうな悲鳴とアルジャンとルージュによるお怒りの声が聞こえてきた。


「だ、めだ」


 何か言い争いをし始めたのは分かったが、俺は眠気を振り払う事が出来ずに結局そのまま意識を無くしてしまうのだった。

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