第154話 熱

「今回の探索はマーク旗を使って短めの探索決定って事はいいんだけど……。本当に短い探索になるのかな、これ」


 灰人が眼前に散らばる黒い岩々といくつもの洞窟への入り口のようなものを見ながらぼやいた。


 分かれ道が多いとどうしても時間が掛かってしまう事が多い。


 灰人だけじゃなく俺もこのダンジョンが面倒なタイプなんじゃないか、と嫌な予感をひしひし感じていた。


「とろとろしていたら長くなるかもですわ。さっさと奥へ進みましょう。ちなみに私の予想だと1番右が怪しいですわね」

「「えー!! あそこが1番あつーい」」


 桜井さんが指を差した入り口からは今俺達のいる場所にまで、熱気を飛ばしていた。


 普通なら1番回避したい選択肢だけどそういうのに限って正解だったりするし……今日は桜井さんの女の勘を信じてみるか。


「じゃあ1番右へ行きましょう。っとその前にルージュ、コカトリスのいる正確な階層を教えてくれるか?」


 エクスが言っていたのは500階層くらいだったから、一応そこの情報を正確なものにしておきたい。


 ちょうど今ならモンスターも見当たらないし丁度いいだろ。


「んー。コカトリス、530階層。おっきいのとは別の場所」


 おっきいのとはボスの事だとして、やはり灰人達が居たのはイレギュラーな場所。

 隠しフロアである事は間違いない。


「ありがとうルージュ。おっとメモメモ」


 俺はルージュの頭をそっと撫でると、急いでメモ帳に情報を書き込む。

 

 桜井さんのソワソワする様子が見えたので、いつもより慌て気味だ。


「すみません。じゃあ進みましょうか」

「了解ですわ! みなさん、私に付いて来てくださいまし!」


 俺が意見を汲んだからか、桜井さんは自ら先頭に立ち、意気揚々と歩き始めた。

 

 桜井さんはヒーラーだけど近接戦闘も出来るし、今回の先導はお任せしてしまおう。



「あっついですわね……」

「「あーつーいー!」」


 桜井さんを先頭に歩く事10分。


 道は1本道で迷う要素は一切ない。

 その上モンスターに遭遇するという事もなく、順調にダンジョンを進んではいるのだが……とにかく熱い。


 というのも道の脇にどろりと赤い液体が流れる深めの溝があり、そこから凄まじい熱気が立ち込めているのだ。


「ふぅ。あれってどう見てもマグマだよね。という事はこのダンジョン自体が大きな火山になっているっていう感じなのかな」


 灰人が額汗を拭いながら話を切り出した。


 暑すぎて全体の言葉数が減りだしていたから、こういう話題で意識を逸らさせようとしてくれているのかもしれないが、桜井さんもアルジャンもルージュもそれどころじゃなさそう……答えられるのは俺しかいないか。


「ああ。ただそうなると災害……ダンジョンだからギミックって言った方がいいか。モンスター以外にも厄介なものが多そうだ」

「そうだね。なんならそっちの方がメインになるかも」

「「あっつい」」

「2人とも。脇に逸れる方が暑……伏せろ!」


 ふらふらと脇に逸れてゆくアルジャンとルージュに声を掛けていると、いきなりマグマがぼこっと音を立てた。


 危険を感じ俺は全員に伏せるよう合図を出す。


 するとそれが功を奏し、桜井さんとアルジャンとルージュはマグマから飛び出した小さなモンスターの体当たりを無事躱す事が出来た。


「『ベビーファイアリザード』」


 名前通りモンスターは片腕程の小さなトカゲ。

 頭のてっぺんにモヒカンのような形の炎がくっついているのがちょっとだけ可愛らしい。


「危ないじゃありませ――」

「『鎌鼬』」


 ベビーファイアリザードが地面に着地するタイミングで灰人がスキルを発動させた。


 鎌鼬の速度も大きさも以前見たときとは違い、明らかに強化されていた。


 普通のダンジョンの1階層なら間違いなくモンスターを一撃で倒せるレベルの攻撃。


「ぐぎゃあああああああ!!!」

「!? 鎌鼬!」


 だがベビーファイアリザードは絶叫しながらも一撃耐えてみせたのだ。


 灰人は驚きながらも追加で鎌鼬を発動させ、ベビーファイアリザードをなんなく倒したが……。


「もっと深い層にいるコカトリスは簡単に倒せる様になっているのに……。なんで1階層のモンスターが?」


 灰人は不思議そうに頭を傾げ、嬉しそうな様子は一切見せないのであった。



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