第155話 重なる
「「いただきまーす!」」
灰人が微妙な表情を見せていることなど全く気にせず、アルジャンとルージュは消える寸前のベビーファイアリザードに駆け寄る。
ぐちゅぶちゅ、ぶち、めき、くちゃめきょ。
「おう……」
「こ、これは……。あ、あなた達、その、よくそのまま食べれますわね」
ベビーファイアリザードの死体にむしゃぶりつく2人の姿に桜井さんと灰人は顔を引きつらせる。
特に灰人は2人に声を掛ける事もせず、ただただ絶句している。
まぁその気持ちは分からなくもない。ギャップって怖いよね。
「「ごちそうさま!!」」
「2人共お口の周りを拭かないと。まったく、もっとお上品に出来ませんの」
桜井さんは意外に順応するのが早く、食事したばかりの2人の口元をハンカチで拭く。
桜井さんが2人のお姉さん、というかお母さんに見えるのは俺ばかりじゃないだろう。
「んぁっ! スキル使えるよっ!」
「じゃあ早速頼むよ。おっと、メモ帳メモ帳」
桜井さんに口元を拭かれたルージュは、颯爽と桜井さんの元を離れて俺の元に駆けよると嬉しそうにスキルの仕様が出来る事を報告してくれた。
まだ桜井さんに対して人見知りは発動したままなのかな?
「ベビーファイアリザードは1階層から39階層で……えっと100階層の右でファイアリザードは101階層から299階層、ファイアワイバーンは301階層から399階層、ベビーファイアドラゴンは401階層から501階層。ファイアドラゴンは……ここじゃ分かんない」
「分かった。ありがとうな」
「えへへ」
俺はルージュの頭を撫でると、情報を書き記したメモ帳を閉じた。
ルージュの言い方からすると100階層で分岐があるらしい。
一色虹一がどこのどっちに行ったかもまたエクスに聞いてみるか。
知らなかったらどうしよう。
最悪の場合2回位500階層以上の探索をしないと……。
いや、今はそんなこと考えるのはやめておこう。
「それにしても結構人フロアが長そうだし、ちょっと走って進まない?」
流石に暑さが堪えたのか灰人は少しでも早く今回の探索を済ませる為の提案をした。
内容的にこの際もう引き返してもいいんじゃないかという気持ちと、もうちょっと奥まで見ておきたいという気持ちが灰人の中で葛藤したのだろう。
「そうですわね。今の装備じゃこの暑さの場所に長居出来ませんし……さっさと20階層まで進みましょう」
「……分かりました。アルジャン、ルージュ、一旦武器に戻ってくれるか? たぶんアイテム欄の方が涼しいぞ」
「「うん!」」
桜井さんが灰人の提案に乗ったので俺も同調して、一旦アルジャンとルージュをアイテム欄に戻す。
「じゃあ行きますわよ」
それを確認した桜井さんは一息すると、思った以上のスピードで駆け出したのだった。
◇
「はぁはぁはぁ、ん、やっと19階層ですわね」
「あちぃ……」
「暑いって言うと余計に暑く感じるぞ灰人」
額から零れる大量の汗。
走った事も原因だが、一番の問題は階層が深くなるにつれマグマが見える箇所が増え、フロアの温度が上がっているという事。
この辺の対策も何とかしないと。
19階層まで騙し騙しやって来たが、流石にもう辛い。
「20階層はボスで、マーク旗も必要ないですからここで帰りますか? モンスターもしばらく変わらなさそうですし」
「折角ここまで来たんですから20階層のボス位倒してから帰りません? 幸いボス部屋は平温ですし」
正直なところ10階層のボスで出てきたのが『なんちゃってサラマンダー』とかいう明らかにネタボスだっただけに俺としてはもう帰りたい気持ちの方が勝っているが、桜井さんのモンスターとの戦闘に対する熱量は以前とは比べ物にならないものがあり、この向上心を無下にするのは何となく心が引ける。
ここに来るまでに出てきたベビーファイアリザードもなんだかんだ桜井さんがほとんど倒しているし。
「それに10階層は白石君だけで倒してしまいましたでしょ? なんかまだ物足りないんですのよね」
「それなら俺も」
「……分かりました。20階層は俺はサポートに回らせてもらいます」
俺はやる気満々といった2人に戦いを楽しむ一色虹一や猩々緋さんの姿を何故か重ねてしまい、大人しく首を縦に振るのだった。
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