第152話 500
「ここだよ」
「お、おお……」
「「こわーい!!」」
豪邸の中にあるとは思えない程異質な雰囲気を持ったオンボロな建物。
こんな建物にダンジョンなんて本当にあるのか?
「中は綺麗だから安心しなよ。元々は不良グループが勝手にたまり場にしてたらしくて……まぁちょっとした廃墟だったらしいね」
そう言いながらエクスは建物に足を踏み入れた。
確かに中はちゃんと片付いているし、埃っぽくない。
とはいえ生活の匂いはないし、エクスは土足で踏み入ってるし、人が住むという雰囲気じゃない。
「ここよ。開けて御覧なさい」
エクスが指を差したのは、風呂の浴槽。
俺はエクスに誘導されるがまま白い浴槽用の蓋に手をかけた。
誰かが綺麗にしているのか蓋にはぬめりも変な汚れもないから意外と抵抗はない。
カタッ。
蓋を開ける音が浴室で反響し、ダンジョンの入り口が姿を現した。
「「うわぁ!」」
「階段ですわね」
「結構急ですね」
「先が暗い。ちょっと待って俺が明かりを……」
俺達は浴槽に顔を近づけ、中の様子を確認した。
すると灰人は気を利かせてすぐに懐中電灯をアイテム欄から取り出してくれた。
こういう準備のいいところが本当に関心出来る。
「あいつが今何階層に居るのかは分からないけど、潜っている時間を考えると相当深いところにいるか、相当強いモンスターに遭遇しているか……とにかく気を付けて。場所によっては他のダンジョンに繋がっていたりするから雰囲気が急に変わるようなら、帰還の魔法紙を使うといいわ。そういう場所は一方通行になっているから」
ダンジョン『スライム』からこのダンジョンに訪れた人がいないのは、それが原因か。
「あっそうだ! 因みになんですけど俺達が連れて行ってもらった場所は何階層なんですか? あれも一方通行?」
ダンジョンに進む前に灰人がエクスに聞く。
俺としても灰人達の行ける場所っていうのは気になっていたし、もしそこと通常フロアが繋げられたなら何かと便利そうだなとは思っていたところだ。
「あー。あそこは何階だったかしら。確か、5ぉ……」
「50階層ですか! なんだ案外そうでもな――」
「500階層過ぎたあたりだと思うけど、ごめんね。あんまり覚えてないわ」
500という数字に質問した灰人は当然、桜井さん、勿論俺も声が出なくなる。
なんだよ、500階層って。
なんでそんな深い階層とダンジョン『スライム』のあそこが繋がってんだよ。
「はは、500階層って冗談ですわよね?」
「ん? 私そんなつまんない嘘つかないわよ。それに探索者協会の保有している難易度が高いって言われてるダンジョンの殆どがそれ以上の深さじゃない」
エクスはあっけらかんとしている。
本当に嘘でも冗談でもないみたいだ。
「えっと……そんな深い階層があるなんて言う報告聞いたことないですよ」
灰人が冷や汗を垂らしながら口を開いた。
顔は冷静を装っているが、体は正直なものだ。
「あーそっか。あいつもあいつらも報告してないのかぁ。まぁその辺みんなズボラだし……あ、あいつらは探索者協会の人間じゃないんだっけ」
「それってどうい――」
「「ゴーゴー!!」」
エクス発言に問いただそうとすると、アルジャンとルージュが先陣を切って階段に突っ込んでいった。
2人には後でお説教が必要かもな。
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