第151話 リザードマン
「リザードマン……。もしかしてそれって」
「これでも小さく丸めてるんですけど……やっぱり目立っちゃいますよね」
俺が臀部の膨らみを見ると女性は照れながらその正体を見せてくれた。
ニュルリと動くそれの表側は黒い鱗がびっしりと生え揃い、裏側はクリーム色をしていた。
女性のおっとりとしたイメージと比べるとかなり厳ついが、男心的にはカッコよく映る。
「やっぱり尻尾ですか」
「あんまりじろじろ見られると、恥ずかしいです」
女性は尻尾をうねうねさせながら顔に手を当てた。
若干顔が赤い。
「白石君……」
「すみません!その、尻尾がカッコいいと思って」
桜井さんの凄みのある声。
俺は咄嗟に謝って言い訳をしてしまう。
「カッコいい、ですか。一色様と同じ事を仰るんですね。ありがとうございます。えっと……」
「あっと……白石。白石輝明っていいます」
「ありがとうございます白石様。あ、私の名前はエニスといいます。ふふっ」
エニスさんはニコッと微笑んでくれた。
さっきまでの不安そうな表情も晴れているし、良かった良か……なんで桜井さんが怖い顔してこっちを見てるんだろう。
「この人達、リザードマンの集落はダンジョンの中にあったの。でも私達が初めて出会った時にはもうその数は少なくなっていて……」
「私達の仲間の殆どは人間に殺されたんです」
エクスが話し出すとエニスさんは再び顔を暗くさせ、絞り出すように言葉を紡いだ。
「殺されたっていうのはどういう――」
「経験値とかドロップ品とか、探索者ならそれを目的に当たり前にやっている事ね。ただ今回は対象がリザードマンの集落になってしまっただけで」
エニスさんは俯き、話し出す様子は一切ない。
「私も最初はあいつの指示で戦って、殺すのかと思ったわ。でもあいつが攻撃したのは人間の方だった。しかもあいつはその人間を捕らえてダンジョンの深い層に置いてったのよね。直接殺しはしてないけど、きっと死んでるわ」
「あの時は私達も何が起こったのか分かりませんでした。まさか敵のはずの人族が助けてくれるなんて。そう一色様は私達の命の恩人なんです」
エニスさんが頻りに一色虹一を一色様と呼ぶ意味が分かった。
命の恩人に経緯を払うのは人も亜人も変わらないって事だ。
「それでダンジョンを隠す理由は助けてあげたこのリザードマンさん達を守る為って事ですね」
「その通りよ。因みに地上にこうやって住みかを作ってあげてるのはダンジョンのモンスターが凶悪化していてリザードマンがダンジョンで暮らすのは危険だから。その原因解明の為に一時期は何ヵ月も地上に戻ってこなかったっけ」
「私達も強くあれれば良かったんですけど、戦闘が得意なリザードマンは軒並み殺されてしまって……」
エクスとエニスの話のお陰で謎が殆ど解明された。
だけどわからない事がまだ1つ。
「一色虹一にはリザードマンに対してそこまでしてあげるよっぽどの理由があるって事ですよね? ただ助けてあげたからその責任で、ていうだけじゃ流石にここまで……」
「さあね。でもあの時のあいつの顔は本気だった。私があいつに気圧されたのなんてあの時だけよ」
エクスは神妙な面持ちで思い出すように答えてくれた。
あの能天気な雰囲気の一色虹一がそんな表情を見せるなんて想像もつかないが。
「……まぁ事情は分かりました。最初に話していた通りここの事は絶対に他言しません。ただもしもの場合は」
「それはあなた達とあいつの交渉次第よ。私にあーだこーだ言われても困るわ。……直接話しに行きなさい。ダンジョンの入り口を教えてあげる」
灰人が話を切り出すとエクスは困ったような表情を見せた。
そして、一色虹一がいるダンジョンの入り口へと俺達を案内しようとしてくれたのだが……。
「あの、白石様……やっぱり甘いものは苦手でしたか?」
「そんな事ありません! 頂きます」
「ごめんなさいエニス !あなた達、エニスの作ったお菓子を残したらダンジョンまで案内しないわよ!」
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