第145話 モンスター鍋
「ふぁ……」
「「ふぁ」」
俺はダンジョン『蟲』で2人の能力を試した後、『蛇の寝床』に関する情報を手に入れる為いくつものダンジョンを回った。
しかし受付嬢達もその場にいた探索者もそれについて知っている事はなく、散々回って疲れたので今日は大人しく自宅に帰ってきたというわけだ。
それでもって2人の装いが探索で汚くなっていたから風呂に入れて、俺のTシャツを着させて……気分は完全に保護者になってしまった。
「2人ともお疲れ。どうする? アイテム欄に戻るか?」
「んー。僕今日はこっちがいい」
「ふかふかぁ」
2人は風呂から上がるなりソファの上を占拠していた。
どうやらその感触がお気に入りみたいだ。
俺としても2人が居ると何となく気持ちが沈み過ぎないから少し助かる。
「まだ寝るには早いし……ご飯でも食べるか?」
「「うん!」」
元気のいい返事を聞くと、俺は早速食事の支度にとりかかった。
段々と外も寒くなっているし、材料的にみても鍋が一番簡単で良さそうかな。
土鍋を取り出して水、酒、みりん、しょうゆ、塩、顆粒和風だしを投入。
少し濃いめに味を付けたら、鍋に火をかけ白菜の白い部分と豚バラ、ひき肉があったから生姜たっぷりの肉団子を作り投入。
都度灰汁を取り除き、白菜の白い部分が柔らかくなったら、薄目に切った人参、豆腐、シメジ、長ネギ、白滝、白菜の葉の部分を入れ蓋をする。
完全に煮えるまで少し時間があるから冷凍してあったご飯を取り出しレンジで温めて……流石に酒はやめとこうかな。
「ごはんまぁだぁ?」
「私もぺこぺこ」
あれだけモンスターの死体を頬張っていたっていうのに……。
2人は調理中の俺にぴったりと引っ付いている。
「もう煮えたからあっちで待ってて」
「「はーい」」
とぼとぼとソファのある場所に戻った2人。
ダイニングテーブルもあるが、椅子の高さを考えるとこの前出した炬燵テーブルの方がきっと楽だろう。
「よっしゃ出来たぞ! これを真ん中に置いてもらってもいいか?」
「私やる!」
率先してルージュが俺の手から鍋敷きを持っていくと、何度も位置を調整して几帳面に鍋敷きを置いてくれた。
ルージュはアルジャンに比べて、しっかりしていてお姉ちゃん気質なところがあるようだ。
「よし、じゃあ開けるぞ」
取り皿を並べ全員の箸を並べると、俺は鍋敷きの上に鍋を移してその蓋をゆっくりと開けた。
だしの香りが強く鼻腔を擽り、口の中で唾液が増えていく。
なんだかんだ俺も相当動いたし、腹が減っているって事だ。
「いただきます」
「「いただきます」」
2人は俺の真似をして手を合わせ挨拶をすると、慣れない手つきで箸を持った。
そのままの状態で鍋をつつかせるのは危ないので、俺は2人の皿に具をよそってあげるとなんとか食べ始めてくれた。
こりゃあスプーンも用意してあげないとか。
「美味いか?」
「「うーん……」」
感想が気になったので2人に問いかけてみたが、正直なところ反応は良くない。
子供に食べさせるにはちょっと味付けが渋すぎたかな?
「まずかったら無理しなくてもいいから。確か、アイスもあって――」
「不味くない。でもちょっとたんない……」
「ちょっとアルジャン!」
正直に感想を言い始めたアルジャンと俺に気を使ってそれを止めようとするルージュ。
なんだかお姉ちゃんと弟みたいだな。
「足りないっていうのはどういう事?」
「モンスターの感じが足りない」
モンスターの感じ。
きっと地上の食べ物とモンスターの死体ではその肉に含まれる魔力とかそういったものが足りないってことなんだろう。
「なるほど……じゃあちょっと待っててくれ」
俺は小さめの鍋を取り出すと土鍋からスープと具材をいくらか移してキッチンに戻った。
そしてその鍋を火にかけると、アイテム欄からモンスターの素材をいくつか取り出して適当に放り込む。
見た目は美味そうに見えないが、多分これなら2人も喜んでくれるだろう。
「出来た! これでどうだ!」
「「んーっ! 美味しい!!」」
案の定2人は新しく用意した鍋に夢中になってくれた。
見た目は本当に悪いけど……。
「ただいま!」
「お邪魔済ますわ。ってどうしたんですのその子達。それにそれ……。白石君! あなたは子供に何を食べさせているんですの!?」
最悪のタイミングで1番面倒くさい人にグロテスク鍋を見つけられてしまったのだった。
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