第146話 沢山欲しい

「それでこの子達が白石君の持ってる武器が進化した姿っていう事ですのね」

「はい。今日は武器に戻るよりこのままが良いっていうのでこのままにしてあげようかと」

「そうしたらこの子達ように寝るところ用意して置くよ。先に俺の部屋に布団2つ敷いてくる」

「いや俺の部屋を使わせ――」

「俺の部屋の方がちょっとだけど広いし、敷布団もこっち。わざわざ兄さんのところに布団持ってく方が面倒だって。いいから兄さんは自分の部屋でゆっくりしなよ」


 桜井さんと灰人に事の説明を終えると、桜井さんはどこかホッとしたような表情になり、灰人は気を利かせて布団の準備をしに行ってくれた。


 最近灰人が俺に対してこれでもかって位気を遣ってくれるのがなんだか申し訳なく思える。


 灰人には何かしらの形でお礼をしてあげなくちゃな。


「ほらほらお2人ともお口に付いてますわよ」

「「んー」」


 桜井さんはポケットからハンカチを取り出すとアルジャンとルージュの口を拭う。

 2人は少し嫌そうな素振りを見せるが、抵抗はしない。


 灰人に鍋の中身を取り分けて貰ってもいたが、その時も顔が若干険しかった。


 2人は結構人見知りをする性格なのかな。


「……。そういえばそのスキルを発動させるにはモンスターの死体を食べさせる必要があるって言ってましたけど、それってモンスターの素材……ドロップ品では駄目ですの?」


 2人の口元を拭い終わると桜井さんは何気なくふっと呟いた。


 確かにそれが出来るなら『蛇の寝床』の場所も分かるかもしれない。

 実は鶯川さんから『エキドナの唾液』を治療ようとしていくらか分けて貰う約束もしてあるのだ。


「「んー」」


 2人は顔を見合わせて唸った後にしてちらっと俺の顔を見た。

 多分桜井さんに話して良いのかどうか悩んでいるのだろう。


「俺も知りたいな。教えてくれるかい?」

「「うん!」」


 2人は元気よく返事をする。

 その様子が可愛らしく映ったのか桜井さんは、怖いくらいニコニコしている。


 社畜時代に見ていた桜井さんの姿は完全に陰を潜めているな。

 まぁ、その方が俺も助かる。


「僕もルウジュウも一緒。スキル使うにはモンスター一杯食べないと駄目。それでおんなじ部分ばっかりじゃもっともっと食べないと」

「これだけじゃ駄目。スキル使えるにはやっぱりまるまるがいい!」


 アルジャンが説明してくれると次にルージュが鍋に指差しをして教えてくれた。


 スキル発動の条件でこの鍋以上にモンスターの素材を食べさせる必要がある。

 という事は『エキドナの唾液』の必要量は……流石に鶯川さんからそんなに沢山は貰えないよな。


「そうなのですわね。でしたら私ちょっとお願いしたいのですけど……。灰人もドロップ品の提供に協力なさい!」

「え、何々? 何がどういう事ですか?」

「いいから今日拾得したドロップ品を出しなさい!」

「え、あ、は、はい」


 ちょうど自分の部屋から戻ってきた灰人が桜井さんに気圧されているのが少し面白くて意地悪だと思ったが俺は直ぐに説明をしないのだった。

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