第143話 ダンジョン『蟲』
「うわぁ……」
「すっごいねえ」
ダンジョン『蟲』の1階層に入るなり、アルジャンとルージュは呆気にとられていた。
俺は一色虹一を探す時に一応ここに入った事はあるがこの2人に関しては初めてになる。
というのも今の俺のレベルと攻撃力であれば、武器を使わなくてもそこそこなところまで潜れるし、そもそも以前はそこまで深い層にはいかなかった。
あくまでメインは受付の人に一色虹一が来たかどうかの確認。
ダンジョンに潜ったのは念のためそれらしい痕跡がないか確認するだけだったからだ。
「モンスターを倒すから武器になってもらえるかな?」
「「うん!」」
2人は元気よく返事をすると、武器の姿に戻る。
素直に言うことを聞いてくれたのはここに来るまで、そこそこ歩いたりして擬人化で動く事に満足感を得たからかな。
「といっても、ここはモンスターを見つけ辛いんだよな」
見渡す限りに生い茂る木々。
ダンジョン『蟲』はまるで森の中といった様子で、一見するだけではモンスターは見つけられない。
羽音や葉の揺れる音。
モンスターの気配を感じられるというのが余計に恐怖感を煽る。
モンスター自体は強くないが探索者にあまり好かれていないダンジョン。
その理由はそこにある。
雰囲気だけでいえばお化け屋敷に近い。
「行くか。《透視》」
俺は《透視》を発動させ、辺りを見回した。
木自体の急所が視界に映り少し邪魔に感じるが、それでも《透視》の効果は絶大で隠れているモンスターの急所を容易に見つけられる。
スキルレベルも高くなりより広範囲で《透視》が効くようになった事もあってこのダンジョンはもはや何も怖くない。
プシャッ!!
「見えてるぞ。そこにいるのは」
足元からモンスターの攻撃が繰り出される直前でバックステップをする。
すると、モンスターの吐いた糸は虚しく地面に落ち、モンスターは驚いたのか一瞬硬直した。
モンスターの名前は『アーススパイダー』。
地面に隠れる毒蜘蛛で、糸で相手を拘束したあと毒で相手を嬲り殺すなかなか厄介なモンスターだ。
最初に受付嬢から受けた説明によると、森に意識を向けすぎるあまりこのモンスターにやられてしまったという報告が多いのだとか。
「でも見えていれば、問題は無い」
俺は軽く飛び上がると、両手に携えたジャマハダルで硬直するアーススパイダーの頭部を思い切り突いた。
アーススパイダーが柔らかいのか、俺の攻撃力が高いからなのか、その感覚は豆腐を切るよりもあっけない。
「ドロップ品は一応回収しと――」
「「ごはん!!」」
あっという間にHPが0になったアーススパイダーのドロップ品を得るために、その身体が消えるのを待とうとしているとジャマハダルから2人の声が聞こえた。
アーススパーダ―の見た目、結構グロいんだけど……よくこれ見て食欲湧くよな。
「2人とも擬人化していいよ」
「「うん!!」」
2人は直ぐに擬人化し、一目散ににアーススパイダーの元まで駆けていった。
バキ、メキ、ジュルジュッ!! グチュ、ムチュグチャ
消えかけていたアーススパイダーに2人が触れると、消えるという事象がストップし『アーススパイダーの死体』という名前が表記された。
そしてアーススパイダーは2人の子供によって四肢を折られ、咀嚼され、体液を吸われる。
その光景は人によっては卒倒しそうになるほどショッキングなもので、俺でさえちょっと気持ち悪くなる。
例えるならあんなカワイイ、カワウソという動物が蟲の餌を美味そうに喰っている映像を見たとき、それの十数倍のショッキング度だ。
「ふぅ……美味しかった! スキル使う?」
「僕も使える!」
美味そうに切れにアーススパイダーを頬張ると2人は口元を服の袖で拭き、こちらを見てスキルが使用可能になった事を知らせてくれるのだった。
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