第103話 無効

「う、がっ……あっ」


 紫色のHPゲージ。

 どうやら今の一撃で刀の人を毒状態にする事に成功したようだ。


 刀の人の口からは唾液と血が零れ、如何にも辛そうだ。


 HPの残量は直ぐに0になるほど少なくはないが、早くシルバースライムに出てきてもらわないと最悪の場合……。


「ぐ、おぇええっ!」


 俺がアイテム欄からポーションを取り出すのと同時に刀の人の口から、シルバースライムが飛び出してきた。

 人間に寄生した事が原因なのか、少しだけ大きい。


 そんなシルバースライムは自分の状態を確認するかのようにくるりとその場で一周回ってみせる。

 いつもなら経験値の事もあって積極的に倒しに行くところだが、今はそれどころじゃない。


 俺はシルバースライムを無視して、刀の人の元に駆けよると急いでポーションを口に流し込んだ。

 実はこのポーションも猩々緋さんから念のためにと受け取っていたあの高級ポーション。

 高価なものだからあまり使いたくなかったが、こればっかりは仕方ないだろう。それにこういった状況なんだからこの分までは俺に支払いを要求は――


「白石君! 『シルド』!」


 その時背負っていた女性が大声でスキルを発動させた。

 俺はその声に反応して急いで振り返る。

 

 目の前には透明な壁、そしてそれを下から器用に掻い潜り、俺の脚元まで迫っていたシルバースライムの姿がそこにあった。


「『瞬きゃ――』」

「白石君!!」


 『瞬脚』で回避しようと思った瞬間、シルバースライムはその身体を液状に変えて、俺の口の中へ入り込んだ。

 

 やばいこのままじゃ俺まで寄生されてしまう。



『シルバースライムを捕食しました。【適応力】の効果により、シルバースライムの【寄生】スキルを【魔法攻撃無効】のスキルに上書きし、自由に利用出来るようになります。この効果はシルバースライムが体外に排出される、或いは体内で絶命すると自動的に消滅します』



 最悪の状況から一変、俺の頭の中に思いがけないアナウンスが流れた。

 どうやら俺は経験値モンスターに特化した攻撃手段だけでなく、寄生というメタル系スライム特有の効果を無効にするスキルまでいつの間にか取得していたらしい。

 

「いけない……。白石君! 白石く――」

「2人とも避けて!!」


 まさかの出来事に呆けていると、猩々緋さんのいる方から水のつぶてが飛んできた。

 俺は背中に張り付いている女性を『剛腕』を利用して力づくで腹側に移動させると、そのつぶてが当たらないように全身で守る。



 バンっ!!



 激しい衝撃が俺の体に走る。

 だが、痛みはない。


「白石、君?」


 俺がシルバースライムに寄生されたと思っているのだろう。

 女性は俺の顔を不思議そうな顔で覗き込み、恐る恐る声を掛けてきた。


「大丈夫です。俺、攻撃でも守りでも完全にメタル系特化になれるみたいなので」


 腹にいるシルバースライムがじわりじわりと這い上がってくる。

 その位置から察するにシルバースライムが体内から出てくるのにかかる時間は俺が必死に抵抗したとして大体2分。


「安心してください。今の俺、ちょっとだけ強いと思います」


 俺はジャマダハルを構えると、限られた強化時間で無双劇を開始しようとしていたのだった。

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