第102話 躊躇
「『挑発』」
猩々緋さんが中指を立てると、中指は青白く光った。
そしてそれに誘われるかのように、橙谷さん、桃ちゃん、柿崎さん、それと俺に見覚えの無い女性を合わせた4人が猩々緋さんの元に走ってゆく。
「残り2人は任せました!」
そういうと猩々緋さんは俺達から距離をとって4人の攻撃をいなしだした。
「白石君っ!!」
猩々緋さんの様子を窺っていると俺の眼前にも、探索者が2人迫ってきていた。
片方は日本刀を携え、もう1人はメリケンサックのような武器を装備している。
2人ともゴリゴリの接近型というところだろうか。
「『回避の加護』『毒の神髄』」
俺は2つのスキルを発動させながら2人の攻撃を躱す。
素早い剣撃と繰り出される拳が交互に襲ってくるのはきついが、猩々緋さんのバフのお陰もあってなんとか躱す事は出来る。
「う、がぁああ!!」
なかなか攻撃が当たらない事で刀を持っている人はフラストレーションが大分溜まったのだろう、唸るような声を上げながら右足で地団太を踏んだ。
俺はその瞬間に懐に潜り込み、ジャマダハルで急所の心臓部分を狙い定める。
「当たるっ!!」
突き出したジャマダハルはまっすぐ急所に向かう。
「や、め」
その瞬間だった。
刀を持った人、攻撃の対象が人間の声を漏らしたのだ。
しかもそれは、命乞いをする弱く儚い声。
俺の腕はもう少しのところでピタっと止まる。
「白石君!!」
「くっ!!」
背負っている女性の声を聞き、もう1人の拳が腹部に当たろうとしていた事に気付く。
俺は慌ててジャマダハルでガードするものの、放たれた拳による殴打によって体ごと後方に弾かれてしまった。
刀の人が敏捷性に長けているのに対して、メリケンサックの人は攻撃力が異常に高いようだ。
「くぁっ!」
「え?」
体勢を整えて、もう一度攻撃に打って出ようとすると、女性が辛そうな声を上げた。
「はぁ、はぁ……『ファイブプロテクト』のデメリット。大丈夫だから気にせず突っ込んで」
さっき女性が掛けてくれたスキル。
とんでもなく有能なスキルだと思ったが、この様子から察するに俺が受けるはずのダメージ、その何割かを女性が代わりに受けてしまうものなのかもしれない。
俺があそこで手を止めたから。
さっきまで窮地に立たされいて、きっと体力的にも精神的にも辛いはずのこの女性に俺は助けられて……。
このままじゃ、椿紅姉さんに助けてもらっていたあの時の俺のままじゃないか。
今度は俺が椿紅姉さんを助けてあげないといけないのに……。
相手が人間だからってこんなところでビビッて攻撃出来なくなるなんて、こんな情けないことはない。
「すみません」
「いいの。今の私の仕事は白石君を全力でサポートすること。その為にはこのくらいのダメージは想定な――」
「俺、もうあなたに無理はさせません」
「……白石君?」
「『剛腕』」
俺は『剛腕』を使うと、こちらに駆け寄ってくるメリケンサックの人と刀の人に向かってジャマダハルを投げつけた。
『剛腕』を使った事で勢いよく飛んでいくジャマダハルは2人の急所に一直線。
2人は流石にこれは回避しないと不味いと思ったのか、受け止めるではなく、再度ステップでそれを躱す。
「『瞬脚』」
ドス。
俺はその隙を突いて『瞬脚』でメリケンサックの人の懐に潜り込むと、移動中に取り出していた『ファングヒポモス』の牙を躊躇なく急所に刺した。
「う、が……」
「ファングヒポモスの牙には麻痺効果があるからしばらくは動けないはずだ。……よっと」
俺は動けなくなったメリケンサックの人を横目に投げ飛ばしたジャマダハルを回収すると、もう1度、今度はゆっくりとメリケンサックの人に歩み寄る。
「『光輪斬』! 『光輪斬』『光輪斬』!!!」
すると仲間がやられた事で動揺したのか、刀の人は狂ったようにグルグルと回転する光の輪を放つ。
しかし、そんな適当な攻撃がバフのかかった状態の俺に当たるわけもない。
「『瞬脚』」
「うがっ!?」
俺は『瞬脚』で間合いを詰めるとジャマダハルで問答無用に急所を突くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。