第40話 高速移動

「瞬間移動!?」

「いや、高速移動系のスキルだ。それも俺より速い」


 一連の流れを見ていた灰人にはシーフラビットの動きが瞬間移動に見えたらしい。

 だがブレーキ痕のような跡がそれを否定する証拠になっている。


「気付かれてしまいましたか。貴方の言う通り私はそういった手のスキルを保有しています。はぁ、ネタバレしてしまっては面白味が激減ですよ」

「別に面白味なんか入りませんわ!!」


 やれやれと困ったように手を上げながらやれやれと首を振るシーフラビットに向かって桜井さんは鞭で攻撃を仕掛けた。


 しかし、鞭は俺の攻撃同様簡単に躱されてしまう。


「『身体強化』『鎌鼬』」


 斬撃が縦に地面を抉るようにして放たれた。

 どうやら灰人も攻撃に加われるようになったらしい。


「威力はあるようですが、当たらなければどうという事はないですね」


 シーフラビットは『鎌鼬』さえも簡単に躱すと、ふっと息を吐き、拳を握りしめるとボクサーの様に軽く跳ねてみせる。


 今度は敵の攻撃ターンという事らしい。


「まずはあなたから……」

「くッ!」

「ほう、勘がいいですね」


 俺は咄嗟に自分の腹をジャマハダルでガードした。


 動きはほとんど見えなかったが、山勘が当たってくれたようでシーフラビットの鋭い一撃を何とか防ぐことが出来た。


 俺はそのままカウンター攻撃に移ろうとジャマハダルで突く体勢をとったがシーフラビットはもう正面にはいない。


「きゃあっ!」

「桜井さん!」

「油断し過ぎですよ。お姉さん」


 いつの間にかシーフラビットは桜井さんにジャブを放ち、得意げに笑っていた。


「『身体強化』『鎌鼬』」

「またそれですか?」


 懲りずに灰人は『鎌鼬』を放つ。『身体強化』を発動してるからか、普通に『鎌鼬』を使う時よりも威力があり、地面も大きく抉れる。

 ただ、そのスピードではなかなか、シーフラビットを捉える事は出来ない。

 出来て今みたいにシーフラビットの攻撃を邪魔する程度だ。


「≪透視≫」


 俺は≪透視≫を発動させると、シーフラビットというより、点を狙うという視点に切り替え、攻撃を仕掛ける。


 赤い点は凄まじい速さで動く事で点から線へ。シーフラビットの軌道をこの状態ならギリギリ追うことが出来る。


「右っ! 『瞬脚』」

「おっと!」


 俺はシーフラビットが止まるであろう先を予測して『瞬脚』を使った。

 シーフラビットは俺の行動が予想外だったのか、驚くような声をあげるが、まだどことなく余裕を感じる。


「ふっ!」

「当たりませ――」

「『身体強化』『鎌鼬』」


 俺の攻撃はひらりと躱されるが灰人が追撃を仕掛ける。

 一瞬焦ったように言葉を途切れさせるものの、追撃の『鎌鼬』は避けられ、地面を抉るだけ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、おっえ……」


 短時間に『身体強化』を使い過ぎた所為なのか、灰人のマラソン後のような呼吸と嗚咽が俺の下にまで届く。


「灰人っ! 無理だけは――」

「兄さんっ! 後ろ!」


 いつの間にかシーフラビットは俺の背後に立ち、拳を振り上げていた。

 もう避けられない。


「このっ!」


 その時、桜井さんの鞭がひゅんという音と共に空を切った。


 シーフラビットはそれに気づき、再び高速移動。俺はなんとか事なきを得た。


「3対1だとなかなか辛いものがありますね。いやはやお見事です」


 シーフラビットは俺達との攻防を楽しんでいるようだ。

 

 俺は反対にシーフラビットが敵に対して賞賛を送る程余裕があるという事実に嫌になってしまいそうになっているのだが。


「その態度気に入りませんわ!」

「『身体強化』『鎌鼬』」


 そんなシーフラビットに対して桜井さんが鞭を振り上げ、灰人はそのサポートとして『鎌鼬』を放つ。


「いやぁ、やる気は買うんですけどちょっと攻撃がおざなりですね。攻撃はスマートに、が基本ですよ。そう、こうやって」


 シーフラビットは灰人を見ると再び高速移動を始めた。


「んあっ!?」


 これはまずいと思い、慌てて灰人の元に瞬脚で駆け寄ろうとすると、線になっていた赤い点がしっかりと点に戻った。


 理由は分からなかったが、俺は『瞬脚』で灰人ではなくシーフラビットに近づき、一気に赤い点のある箇所、右目をジャマハダルで突いた。


「くっあ!!」

「当たった!」


 両手でガードされてしまったものの俺の繰り出した突きはシーフラビットの手の甲を貫いた。


「くっ! まさか! 地面を抉っていたのは……」

「黒い跡が線になって残るってことは足を滑らせて移動してるって事。だったらその道に大きめの溝が出来たら……。お前の足が小さくてよかったよ」


 灰人がにやりと笑いながらシーフラビットを見る。


 無理な鎌鼬の連続は地面に溝を作るのが目的だったらしい。

 自分の弟ながらよく頭が回るものだ。


「だが、それが何回も通用すると思わな――」

「これで逃げられませんわよ」


 いつの間にか桜井さんがシーフラビットの足を鞭で捕らえていたのだった。

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