気付いたよ



 夜通し明日葉を捜索していた僕は、椎名の店で仮眠を取らせてもらうことになった。



 家庭事情的に居場所を知らせるわけにはいかないとは言え、失踪届でも出されては彼女にも迷惑がかかるので、僕は昨夜から友人と年越し&初詣に行っていたことにした。一方的に報告だけした形だが、これなら警察沙汰になることはあるまい。家に帰れば、お説教と自宅軟禁(ともしかしたら折檻もあり得る)が予想されるが、それでも今この時間は自由だ。


 よほど身体は休眠を欲していたのか、僕は長らく眠り続け、目覚めたときには正午を回っていた。



「本当に送っていかなくていいのか?」



 心配そうに僕を見送る椎名。そこに日頃の威厳はなく、姉のような慈愛があった。



「大丈夫ですって。僕はもう高校生なんですよ?」



 おちゃらけるようにへらへらと笑みを浮かべたが、彼女の顔は曇ったままだ。



「お前や俺にとってはそうでも、お前の両親にとってはそうでないだろう。だから、な?」



 そう言って、僕の髪を掻き撫でる椎名は大人そのものだった。年は一回りと違わなくても、椎名は大人だ。それはただ僕より数年長く生きているからじゃない。壮絶な人生を歩んだからこそ、身に着けられた風格だろう。



「それでもです」



 僕は椎名の手を、彼女の優しさごと、振り払った。別に優しさが要らなかったわけじゃない。ただただ、この先についてきて欲しくなかっただけだ。



「お前……」


「信用してください。僕だって、思考力のある一人の人間なんですから。ちゃんと、自分で選びます」



 振り払った右手をそっと握り込むと、彼女はきょとんと停止させていた顔をくしゃくしゃにして、自分の頭を掻き乱した。



「お前は、ずるいなあ……そんな言い方されたら、口出しできないだろうが」


「知ってます」



 だからこそ言ったのだと告げると、椎名は呆れたように溜息を吐き、心なしか嬉しそうに口元を緩めた。  



「じゃあ、待ってるから……ちゃんとやれよ」


「はい」



 僕は椎名に背中を見送られて、彼女の店を後にする。


 そうして彼女の姿が見えなくなった頃に、スマホを取り出し、キーパッドに指をかけた……。



「もしもし。朝だけど、今から会えない?」


「…………気付いて、くれたんですね」


「まぁね。――あぁ、椎名さんには内緒だから。会ってくれる?」


「分かり、ました」



 電話の相手はそう告げたかと思うと、直ちに電話を切ってしまった。

 しかし、一分と経たないうちにSMSで追加連絡があった。指定場所はこの地区にある墓地前の公園。時間は午後一時。もう間もなくだった。

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