第29話

「お、おい、ちゃんと切り抜けられるんだろうな? こっちは残弾がないんだぞ! お前だって、さっき意識が戻ったばっかりなのに……」

「心配されても仕方ないにゃ、クリス! この手の妨害網の突破は、ゲームで慣れてるにゃ!」


 慣れてるって言っても、それは移植された記憶の中での話ではないか。

 だが、それをフィーネは前向きに捉えようとしている。自分の出自を、真正面から受け止めようとしているのだ。


 それに、機械操作・操縦にかけては、フィーネは俺たちの中でずば抜けている。それこそ、ゲーム感覚であっても巧みにすり抜けてしまうかもしれない。

 俺はそっと、フィーネの肩に手を載せた。


「頼むぜ、フィーネ」

「おう! 任せておけにゃ!」


 フィーネは軽くハイタッチして見せた。


 そこから先は、まさにフィーネの独壇場だった。耐衝撃区画でうずくまっていた俺たちの世界が、目まぐるしく世界が転変する。

 上が下に、右が左に、前が後ろに、闇が光に。


 タールの星に俺たちを救出しに来たスペース・ジェニシスはボコボコだった。一体、どこをどう通ればこんなになるのかと思われるほどに。

 だがそれに比べて遥かに被弾率が低いのは、冷静になって見れば明らかだ。


「もうすぐワームホールに突入するにゃ! 皆、耐ショック姿勢を改めるにゃ!」


 こうして俺たちの瞼の裏までもが真っ白になった。


         ※


《ワームホール突破。……あれ? 皆、どうかしたかにゃ? ワームホールをすり抜けたにゃ!》


 まるで、『もっと喜べ!』とでも言いたげなフィーネの言葉。恥ずかしながら、それを聞いて俺はようやく顔を上げた。皆も同様に耐ショック姿勢を解くところだった。


「うまく突破できたのか、フィーネ?」

《もっちろん! あたしの腕を見くびってもらっては困るにゃ!》


 真剣なクリスの問いに、堂々と答えるフィーネ。ううむ、心身共に健康体でいるみたいだな。

 すると、別な艦船からの通信が中継されてきた。


《こちらグレート・アース、総司令官ゴッドリーヴだ。スペース・ジェニシスの諸君、よくやってくれた》

「はッ、ありがとうござ……うわっ⁉」

「落ち着けよ、バリー。今は無重力状態なんだ。艦長のバリー大尉に代わり、副艦長としてイサム・ウェーバー少尉が御礼申し上げます」


 すると、どこか楽しげな含み笑いが通信の向こうから聞こえてきた。


《さて、捕虜になっていたフィーネくんは無事かね?》

《あたしは大丈夫だにゃ!》


 おいおい、中将と話すのに『にゃ』を付けるなよ。

 だが、それを責める気にはなれなかった。何せ、俺たちは勝ったのだ。生きているのだ。

 自分が人間だろうがアンドロイドだろうが関係なく、今この瞬間を生きている。それ以上に必要なことがあるだろうか?


《一旦、スペース・ジェニシスをグレート・アースにて回収する。貴官らは、グレート・アースにてゆっくりと身体を休めてくれ。レーザー回線で誘導する》


 その言葉が終わると同時に、人工重力が戻ってきた。

 俺たちはそっとブーツの裏を床面につき、誰からともなく腹を抱えて笑い合った。

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