第11話

「現在も一応任務中ですし、今考えるべきことではないように思いますわ。だってユメハが負傷したのも、そしてそれが治癒しかかっているのも、どちらも事実なんですもの。戦場での『もし』がいかに無意味か、イサム様だってご存じでしょう?」

「ま、まあ……」


 俺は自分の未熟さを思い知らされた。『もし』あの時命令に従わなかったら。『もし』あの時あいつを救出していたら。『もし』あの時跳弾が起きていなければ。

 いろんな『もし』を、俺は先輩から聞かされてきた。頭では覚悟を固めて任務にあたっているつもりだった。

 しかし、心は違った。覚悟なんて、少しもなっちゃいない。初めて『戦場』を体験し、生身の人間の死というものを見せつけられて。


「なあ、キュリアン。君は味方の命を救ってきたんだよな。でも、助けられなかった命もあっただろう? それって……何ていうか、どういう気持ちになるもんなんだ?」

「空虚なものですわね。その質問自体が」

「う、ご、ごめんなさい……」

「あら? わたくし、怒っているわけではございませんわよ。ただわたくしの方が、年が若い割には医療経験があるようでございますからね。まあ、生き残る人間は生き残り、死ぬ人間は死ぬ。それだけですわ」


『極論ですけれども』とくっつけて、キュリアンは言い切った。悪いとは思わないが、随分と冷徹である。まるで戦場の空気を再現しているかのようだ。


「もしユメハを負傷させたことに責任を感じるなら、エリンとも話してみることですわ。あの子、医療経験はもちろん、戦闘経験も少ないですからね」


 俺はお礼だかお詫びだか分からないことを口早に言って、医務室を後にした。エリンはいつの間にか、俺より先に医務室から自室に戻っていたらしい。

 廊下を闊歩し、エリンの部屋番号を探す。しかし、その前にクリスの声がスピーカーから聞こえてきた。


《ブリッジよりイサム少尉へ、フランキー大佐からのレーザー通信を受信した。応答の必要あり。お前も来てくれ。以上》


 俺は足を止め、踵を返し、ブリッジへの階段を上がり始めた。


「ったく何なんだよ、こんな時に……」

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