第8話
「日登君は……将来の夢とかある?」
「いや、ないけど。高嶺は?」
すると、「私も同じ」と語る。
「意外だ。医者にでもなるかと思ってた」
俺は驚いた。
そう思うのも彼女の両親は医者であり、地域最大の病院も経営している。
だから、両親の背中を追って高嶺も医者を目指しているものだと思っていた。
「……両親には言われてる。あなたは医者を目指して、病院を継ぎなさいって。でも……人の血とか……無理で」
なるほどと呟く。
確かに高嶺には虫一匹でも殺せなそうなくらい優しそうなイメージがある。
「そっか。それなら仕方ないな」
「日登君は仕方ないと思うの?」
「当然だ。ただ嫌いならまだしも、生理的に無理なら多分だけど解消されることはないし。特に血とかはね。それに人には得手不得手があるんだから」
医者なんて過酷な仕事だ。
休みはあれど特に定まることはないし、夜勤なんて当たり前。まぁ、それだけならマシだろう。
人の死を目の当たりにするのは日常茶飯事で、分野によっては直接患者の体にメスを入れて助けることもある。
もし、手術を行って助けられなかった場合の悔しさとやるせなさは非常に重いはず。
頭がいいだけでは務まる仕事じゃない。並大抵ではないメンタルと覚悟を持ってないとやっていけないはず。
申し訳ないが、高嶺には医者を務められる程の強いメンタルがあるとは思えない。
「日登君って、かっこいいなぁ」
「は?」
「だって、ちゃんと自分の意見を言えるもん」
「いや……幼稚園児かよ」
あまりのレベルの低い称賛に対し、返答に困る。
「俺は頼れる人がいなかったから俺自身で道を作って、心に従うしかなかっだけだ。それに言われたことだけやったり、言いなりになるだけなら人である必要なんてない。それならロボットで十分だろ?」
「ロボット……か」
高嶺は悲しそうに呟くと空を見上げる。
言葉選びを間違えたか?
「いや……気を悪くしたら、ごめん」
「ううん。それが日登君のいいところだし、好きな部分だよ」
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