オマケ_暴力(氷)・炎・輝き

※この章は、『〈暴力の勇者〉の奇妙な体験』『〈氷の勇者〉の奇妙な体験』でカットされた、〈こおり勇者ゆうしゃ〉レア(身体は〈暴力ぼうりょく勇者ゆうしゃ〉フィオーレ)、〈ほのお勇者ゆうしゃ〉ホムラ、〈かがやきの勇者ゆうしゃ〉アレックスの戦闘の一部を記載しています。

※物語は、〈氷の勇者〉レア視点で進みます。



「やれやれ、こんなところまでレアさんを追いかけてくるなんてね。だが、ここまで来てボクらの野望は邪魔させないよ!来光らいこう!」


 〈輝きの勇者きやまくん〉が鎧を纏う為の光を放ちながら、こちらに走ってきます。

 私はそれを拳で迎え撃とうとしましたが、ちょうど私と輝山きやまくんの間に、人間大の火柱が上がりました。


「落ち着けっつってんだろうがァ‼︎‼︎」


 火柱の中から現れたのは、もちろん〈炎の勇者にいさん〉。


「レア、映像の回収は俺に任せろ。アレックス、お前は邪魔をするな」


 あくまで私たちを止めようとするスタンスを装っていますが、自分も戦いたいだけですね、コレ。


「ハハハ、ホムラさんも冗談がキツいね。素通りさせたら、そのままスタジオに火をつけかねない勢いじゃないか。あと、今フィオちゃんのことを呼び間違えていなかったかい?」


「そうですね……私も深く傷つきましたよっと!」


 私の正体にまだ気づいていない輝山くんに奇襲の左シャブを放ちます。

 しかし、彼は光の粒子となって霧散し、私の拳は空を切りました。

 普段フィオが拳を繰り出す時とは違い、物を破損するほどの拳圧は飛びません。

 彼女の身体で戦う場合、小手先の技術よりいかに殺意を込められるかが重要みたいですね。


「不意打ちなんて酷いなぁ!でも、ボクの能力は知っているだろう?屋内だからビームを撃たないとはいえ、瞬間移動だけでもキミたち2人に遅れは取らないさ!」


 そう言って室内で出現と消失を繰り返す輝山くん。

 おや、この動きは……。


「カイくん!キミも同志として力を貸してくれ‼︎キミの幻影なら、〈筆頭勇者ひっとうゆうしゃ〉さえ翻弄できるさ‼︎」


「は、はいっス!」


 輝山くんの指示を受けた〈虚構きょこう勇者ゆうしゃ〉カイくんが能力を発動しようとします。

 私はそれを止めようと動きますが、それより先に兄さんが言葉で制止しました。


「待て、カイ。悪いがここに来る最中、お前に火種を仕掛けさせてもらった。火だるまになりたくなかったら、俺の邪魔をするな」


「そんな!酷いっス!」


 兄さんがよくやる手口ですね。

 まぁ、兄さんに抱えられていた時にずっと警戒していた私が何も見ていないので、今回はブラフですね。

 カイくんも十中八九そう思っていそうですが、万が一にもこんな小競り合いで火傷はしたくないでしょうから、大人しくしていることでしょう。


 では、そろそろ私も輝山くんの子供騙しを破るとしましょうか。


「それっ!」


 私は可愛い掛け声と共に、可愛くない裏拳を何もない空間に放ちます。


「ブヘッ⁉︎」


 先ほどまで何もなかったはずのその場所には輝山くんが転移しており、裏拳は彼の鎧を砕いて顔面に突き刺さりました。

 瞬間移動のパターンが市民向けのデモンストレーションとまったく同じなのは、流石に油断し過ぎです。

 顔面に裏拳を受けた輝山くんの身体が吹き飛ばされます。

 もう少しで部屋の壁に激突するところでしたが、ギリギリのタイミングで瞬間移動が間に合いました。


「ちょっ⁉︎想像以上にとんでもない威力だったよ今の裏拳⁉︎こうなったらボクも、もう少し大人気ない手を使うとしようか!」


 そう言って彼は両手両足を広げると、次の技を繰り出しました。


「シャイニングバリアァァァァァァ‼︎」


 私と兄さんがこれ以上先に進めないように、部屋の隅まで届く光の壁を作り出しました。


「さらに輝いていくよォ!」


 輝山くんの言葉を受けて、壁の輝きが強くなります。

 目を開けることはおろか、顔を向けることすらまともにできないほどの光量です。


「ハッハッハー!足止めするだけなら、このバリアと目眩しのコンボで十分なのさ‼︎あと30分くらいは、その場で立ち往生してもらおうかな?」


 高らかに勝利宣言をする輝山くん。

 がっかりです。出血するほどのダメージを負いながら、未だにこんなお遊戯会レベルの技を繰り出してくるだなんて。

 確かにこれは殺し合いではありませんが、もう少し死に物狂いで戦ってほしいです。


 案の定、兄さんは床を溶かして下のフロアに移動したみたいですね。

 私は耳を澄ましながら、その時を待ちます。


「何遊んでんだテメェ‼︎‼︎」

「ガァッ⁉︎」


 下のフロアから輝山くんに奇襲をかけた兄さん。

 音から察するに、鳩尾に膝蹴りを叩き込んだみたいですね。

 しかも、膝には鎧を溶かすほど高熱の炎を纏っていたことが、匂いと温度から伝わってきます。


 流石の輝山くんもこれは応えた様で、バリアが解除されました。

 この機を窺っていた私は一気に輝山くんとの距離を詰め、大きく振りかぶっていた拳を再び彼の顔面に叩き込みました。


 元々態勢を崩していた輝山くんの身体は軽く吹き飛び、部屋の壁をぶち抜いて遥か彼方へと飛んで行きました。

 このくらいで死ぬような人ではありませんが、流石に復帰には時間がかかるでしょう。


 また、輝山くんのすぐ近くにいた兄さんもパンチの余波で吹き飛ばされ、壁に激突してダウンしました。


 悪はすべて滅びたと思い、撮影班から映像を回収しに行こうとした、その時。


 後ろから熱気を感じ、慌てて身を捻ります。

 直後、私がいた場所を火球が通過し、その熱で床に炎のラインが引かれました。


 火球が放たれた方向は兄さんが飛ばされた方向とまったく異なります。

 不思議に思った私が発射元を確認すると、そこにいたのは……カイくん⁉︎


「熱ッ⁉︎アツツツツツ‼︎‼︎」


 火はカイくんのズボンにも燃え移っており、必死に消化を試みています。

 こんな芸当ができるのはやはり……


「だから、俺が行くっつってんだろうが」


 壁際でダウンしていた兄さんが、ゆっくりと立ち上がります。


 どうやら私が警戒していた飛行中ではなく、スタジオに到着してからこの部屋に来るまでの間に火種を仕掛けていたみたいですね。

 私は一刻も早く撮影を止めようと先頭を走っていたので、カイくんにまで気を配ってあげられませんでした。

 それにしても、コレは……


「いや、そもそも俺の戦意が落ちてねェのに、何トンズラしてんだレアァァァァァァァァ‼︎」


 怒りの咆哮と共に、周囲に火を撒き散らす兄さん。

 〈輝きの勇者〉との戦闘があっさり終わったことが、かなり不満みたいですね。

 当初の目的を忘れて妹に殺意をぶつけるなんて、とんでもなく酷い兄ですね。

 でも、私は──


「そういうところも大好きですよ、兄さん」


 私もまだ暴れ足りなかったんですし。

 フィオの身体を使っている影響か、いつも以上に戦意が収まってくれないです。

 こうなれば兄妹でとことんやり合いましょう。


 そうやって2人で盛り上がっていた私と兄さんでしたが、直後にそれぞれ別方向に飛び込みました。


 またしても間一髪。今回私たちを狙って放たれたのは火球ではなく、部屋の壁から反対側まで瞬時に貫く二本の光柱でした。


「……なるほど。呼び間違えじゃなくて、本当にレアさんだったわけだ。仲間にこんな酷いことするのなんて、キミたち兄妹くらいだもんね」


 いや、本物の〈暴力の勇者フィオーレ〉も大概ですよ?


 それはさておき、いつもバカみたいに陽気な輝山くんが珍しくローテンションですね。

 流石に怒っているみたいです。


「ようやく面白くなってきたじゃねェか‼︎お前ら2人とも、まとめてかかってきやがれッ‼︎‼︎」


「ハンデありでも、貴方たちより私の方が上だと証明してあげましょう」


「本当はこんなことに使う力じゃないんだけどね。おいたが過ぎたキミたちに、裁きを与えようか‼︎」


 ここからさらに能力のギアを一段上げて、私たちの戦いは激化するのでした。



『以上、〈筆頭勇者〉たちの激闘再現動画でした〜。3人ともかっこよかったけど、後輩を巻き込むのは酷いっすよね〜。〈虚構の勇者〉カイくん、かわいそうっす〜。』

 画面の向こう側で可愛らしい女の子のアバターが、直前まで流れていた動画の感想を述べる。


 彼女は構画かまえ うつろちゃん。

 ここ〈センター〉で高い人気を誇るバーチャル配信者です。

 名前と口調から分かる通り、その正体は〈虚構の勇者〉カイくんです。


 まさか自身も巻き込まれた〈筆頭勇者わたしたち〉の戦いを、幻影の能力で再現して動画にしてしまうとは。

 こうして第三者視点で見せられると、本当に無茶苦茶やってますね、あの時の私たち。


 カイくんが密かに避難誘導をしてくれたおかげで一般人に被害は出ませんでしたが、舞台となった撮影スタジオは戦闘の余波でほとんど使い物にならなくなってしまいました。


 そもそも今回動画になっている部分は、まだカイくんがギリギリ居合わせることができた第一ラウンドですし。


 こうした過ちの反省を兼ねて、私は動画の視聴を続けるのでした。

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