〈氷の勇者〉、玩具を求めて登る
吹雪を切り裂く弾丸が四方から迫り来る。
私は発射直前にスライディングを行うことでその射線上から逃れ、そのまま発射元の一つに向かって猛スピードで滑っていく。
移動先で銃を構えていた玩具の兵士の足首を掴んで引き倒し、能力を使用して内部のパーツを融解させる。
玩具兵が動かなくなることを確認する間もなく前方に飛び込み、追撃の弾丸をかわす。
雪に包まれた地面で3連続ハンドスプリングを行った後に、最後の着地で大きく跳ね上がり、空から次の標的を強襲する。
これで2体目。残るは銃を装備した兵士が3体、剣を装備した兵士が5体。しかし、援軍の足音が徐々に迫りつつある。
「もう少しだけ、様子を見ますか……」
動き回って少しおかしなテンションになりつつある私は、次の標的を定めて滑り出しました。
人気フィギュアを求めて街を駆け回っていた〈
〈
そこに目当ての商品が残っている可能性があると〈
目的の山は標高3000メートル程度。デス・マウンテンと聞いていた割には程々の高さですが、本日中にフィギュアを持ち帰りたい私にとってはギリギリの高さです。
〈愚者の神〉様から借りた登山グッズに身を包んだ私は、急いで山を登り始めました。
待ち受けていたのは、〈玩具の神〉様が仕掛けたと思わしき数々のトラップ。
近くの木々から飛来する無数の矢、クレバスから出現する巨大な玩具の怪獣、半径100メートル以内に近づくと爆発する山小屋など、遊び心あふれる死のトラップを全て乗り越えて、ようやく頂上付近まで辿り着きました。
そして、姿を現したのが玩具の兵士たち。一体あたりの戦闘力は低いのですが、地中や積雪など様々な場所から不規則に出現するため、全体の把握が困難です。
そこで私は、飛んだり跳ねたり滑ったりと、わざと派手に動き回りながら戦い、敵の気配を探り続けました。
仮にも〈氷の勇者〉を名乗る私にとって、視界を遮る吹雪も、移動を妨げる積雪も、戦う上での障害となり得ません。
酸素濃度の変化だけは自力で対応できませんが、
「捉えました」
近接戦闘で10体ほど玩具兵を倒した後、私は残りの玩具兵をすべて捕捉することに成功しました。隠れている分も含めて残り27体。まとめて片付けにかかります。
視野一帯に対して能力を発動。一瞬で巨大な氷のオブジェを生み出し、補足していたすべての玩具兵をその中に取り込みました。
「ふぅ」
ようやく、立ち止まって一息つくことができました。頂上までの距離から考えて、おそらく今のが最後の関門のはず。時間にはまだ余裕があるので、残りは歩いて登りましょう。
そう考えた矢先、猛スピードでこの山を登ってくる何者かを視界の端に捉えました。
あの走り方は…………成る程。
ここまで走って来られる一般人がいるとは思えないので、アレは特殊な訓練を受けた転売屋だと仮定しましょう。
転売屋(仮)との距離はまだ離れていますが、その内私を追い抜きかねないスピードでどんどん迫ってきます。
流石に能力を使用すると相手を殺めてしまう危険性がある為、私は登山用リュックから未開封の鉛筆箱を取り出しました。
この中に入っているのは、特注のHB鉛筆の束。兄妹喧嘩で2B鉛筆を投げてくるアホな
私はその中の1本を取り出し、1キロメートル先まで迫ってきていた転売屋(仮)に投げつけました。
転売屋(仮)は慌てて身を捻り、HB鉛筆を回避します。
パァン‼︎‼︎
避けられたHB鉛筆は地面に着弾し、その衝撃で周囲の雪が弾け飛びます。
走っていた勢いを殺しきれなかった転売屋(仮)は姿勢を崩し、身体を何度もぶつけながら地面に転がりました。
追撃のチャンスです。私は倒れた転売屋(仮)に対してもう1本、HB鉛筆を投げつけます。
しかし、今度は相手側も何かを投合し、こちらの鉛筆を撃ち落としてしまいました。
私のHB鉛筆を撃ち落とすとは、中々やりますね。
転売屋(仮)にトドメを刺そうと、3本、4本と投げる本数を増やして追撃しますが、尽く相手の飛び道具に相殺されてしまいます。
こうなれば仕方ありません。私はとっておきの対〈
転売屋(仮)はこれも撃ち落とそうとしましたが、4Hの硬さに弾かれてしまい、遂に鉛筆が彼の元に届きました。
足元を狙った為直撃はしませんでしたが、着弾時の衝撃は凄まじく、転売屋(仮)は遥か彼方へと飛ばされていきました。
私は悪が滅びたことを確認すると、今度こそ頂上に向かって登山を再開しました。
目的のフィギュアを購入できた私は、『トイゴッド☆まうんてん』を後にしました。
〈玩具の神〉様が経営されているだけあって、中々良い品揃えでしたね。私のフィギュアも旧版と新版の両方がありましたし。
今度レアな玩具を探す時は、最初からここに来ることにしましょう。
すっかり満足した私が下山を始めようとした時、先程の転売屋(仮)が猛スピードで私に迫ってきました。
「何すんだお前ぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」
「あ、兄さん」
帽子とゴーグルを外した転売屋(仮)の正体は、兄さんこと〈炎の勇者〉でした。
「
「悪かったですね。距離が遠かったので、知らない人かと思ったのですよ」
ごめんなさい、本当は最初からわかっていました。久しぶりに兄さんと遊びたかったので、知らないフリをして攻撃しちゃいました。
「とにかく、これでプレゼントは揃いました。一緒に下山しましょうか」
「ハァ……なんか納得いかねぇ」
こうして、私たちは無事に子供たちへのプレゼントを贈ることができたのでした。
ちなみに、山頂付近で投げ合った鉛筆は、下山時にちゃんと回収しましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます