エピローグ2『灰色は雨に濡れて』
その日は同じような雨が降っていた、轟々と地面を打つ雨音は人々の悲鳴をかき消す程であった。まだ幼く小さな角を持った黒髪の少女は、その青い瞳で蛮族に滅ぼされていく故郷を小さな小屋の中で震えながら見つめる事しか出来なかった。
「夕立か……。全くハーヴェスに着いたばかりだぞ、雨に打たれながら今日の宿を探さなないといけないのか」
わざとらしく大きなため息を付いてみせるが反応してくれる人はいない、一人旅はどうしても独り言が多くなってしまう。
「変人と思われぬよう気をつけねばな」
雨除けの外套を羽織り今晩の宿を探す、水の都と呼ばれるこのハーヴェス王国だがこんな夕立に見舞われているせいか外を歩いている人物は見えない。
「ん?」
その時視界の端に何かを捉えた、よく見るとまだ幼い子供が壁にもたれ掛かるようにして倒れているではないか。
「おいそこの君、大丈夫か?」
声を掛けてみるが返事はない、呼吸の有無を確認しようとすると首元の機械パーツが目に入った。
「ルーンフォークか、しかし一体どうしてこんな所で」
「息はあるようだが長い間雨に打たれたせいか体温が低いな」
私は少年を担いで早急に近くの宿で休む事にした、幸いなことにすぐ近くの宿が空いており30ガメルを支払い寝床を確保することが出来た。外を見ると、雨はもう小降りになっていた。
タナ 種族:ナイトメア 性別:女性 年齢:25歳
冒険者Lv3 技能:コンジャラーLv3 スカウトLv2 レンジャーLv1
戦闘特技 《魔法収束》《ターゲッティング》
ステータス 器用度12 敏捷度12 筋力15 生命力17 知力24 精神力24
生命抵抗力5 精神抵抗力7 HP26 MP33
装備 シックル(アックスB発動体加工済) スプリントアーマー ラウンドシールド 他
経歴表
C2-4 身体に傷跡がある
A3-2 一定期間の記憶がない
B6-1 恥ずかしい癖を持っている
冒険に出た理由 5-1 故郷を滅ぼされたから
田舎の村で生まれ母親を出産時に殺してしまった為、死神"タナトス"と呼ばれ忌み嫌われ差別されながら幼少期を過ごす。10歳の頃村が蛮族に滅ぼされる事によって束縛から開放されて蛮族を討伐しに来た冒険者に拾われる、親代わりになってくれた冒険者に感謝しながら今は一人で各地を転々と旅していた。ナイトメアである事を後ろめたく思っているので性格は内向的であり、あまり人と深く関係を結ぼうとしない。
濡れた身体を軽くタオルで拭き少年をベッドで寝かす、腕は細く力を入れれば折れてしまいそうだ。先程は暗くてよく見えなかったが少年は非常に美しく可憐な顔立ちをしている、流石はルーンフォークといった所だろうか。しかし男性型ルーンフォークにしては背が低く、もう少し髪が長ければ少女にも見えるかのような中性的な見た目、これではまるで──。
「人形のようだな」
思わず口に出してしまった、私の悪い癖である。どれ、もう少し整った顔立ちを見てやろうと邪な考えが浮かび私は指で掬うように彼の灰色の髪をいじる。まじまじと彼の寝顔を見た刹那私は酷い頭痛に苛まれた、何かを思い出しそうな気がするがそれを思い出してはいけないような気もする。
「私も疲れているのかもしれんな」
そう呟くとどっと疲労が身体を包み、そのまま私も彼に覆い被さるように寝てしまった。
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