僕に神の声は聞こえない
老川雨池
エピローグ『夕立』
ここは"導きの港"ハーヴェス王国、ブルライト地方の南西の海岸沿いに位置して地方1の活気を持つ国だ。今は夕食の為の買い物の帰りだが見渡せばマカジャハット王国から来たのであろう特産品を背負った商人や、グランゼールから来た冒険者で賑わっている。少し薄汚れた白髪を持つルーンフォークの少年グレイは大きな袋を抱えて大通りを歩いている。
「今日必要だったのは小麦粉と卵と林檎と砂糖か、うんしっかり買えてるな。」
とさっき買った食材を確認する。
「この食材ってもしかして……。」
僕は少しゴキゲンになりながら軽くなった足取りで教会へと向かう。
「楽しみだな、アップルパイ。」
グレイ 種族:ルーンフォーク 性別:男性型 年齢:10年
冒険者Lv3 技能:フェンサーLv3 セージLv3 エンハンサーLv1 プリーストLv0(ライフォス)
戦闘特技 《必殺攻撃Ⅰ》《防具習熟A/盾》
ステータス 器用度18 敏捷度12 筋力20 生命力23 知力14 精神力10
生命抵抗力6 精神抵抗力4 HP32 MP10
一般技能 司祭5
経歴表
A6-1 神の声を聞いたことがある(と信じ込んでいる)
A1-2 命を救われた事がある
C4-6 高レベルの魔法を掛けられた事がある
冒険に出た理由 4-4 なりゆき
ルーンフォークの男性には珍しく背が低く中性的な見た目をしている。かつて蛮族の奴隷として連れられていた時にとあるライフォス神官に救出され、ハーヴェスのライフォス神殿の方へ預けられた。ライフォス神殿で共に過ごした孤児たちの多くはもう成人して神殿を出ている。
僕が10年間過ごしてきたライフォス神殿が目の前に広がる、この神殿は孤児院も兼ねており、蛮族に村が襲われた時等は多くの子供達がここに集まるのだ。両手が荷物で埋まっているのでどうしようか、と思っていたら扉の方から勝手に開き驚いて荷物を落としそうになってしまった。
「いたなら声を掛けてくれよアニー」
僕は少しむっとして答えた。
「そろそろグレイが帰ってくるんじゃないかと思って窓から見ていたの、おかえりなさい」
アニーは綺麗な長い金髪を揺らし目線を落として迎える。彼女はそのまま少し膝を曲げて手を伸ばし褒めるように頭を撫でてくる、僕はあまりこれが好きではないので頭を振って手を払う。
「子供扱いは辞めてくれ、僕は見た目が変わらないだけなんだ」
「あら、ごめんなさい。つい子供たちにお使いを頼んだ時のように褒めてしまったわ」
悪気はないのよと言うように彼女は申し訳なさそうに言う。10年前は僕のほうが背が高かったのに今はアニーの方が頭一つ分大きい、なんというか少し寂しい気持ちになってしまう。
「それじゃあ早速準備に掛かるからグレイは休んでて、結構量多かったし疲れたでしょう?」
彼女は食材を受け取ってそのまま炊事場へと歩き出す。
「僕も手伝うよ、一人じゃ大変だろうから。」
ダメ元で声を掛ける、断られるんだろうなとは思っていた。
「貴方に手伝わせるわけにはいかないわ、だってお皿が勿体ないんですもの」
そう、僕はルーンフォークのくせに致命的にドジなのであった──。
暇になった僕はライフォス様に祈りを捧げる為に聖堂の方へと移動した、この時間はいつも多くの人は祈りを捧げている。僕も同じ様に祈祷の姿勢を取り目を瞑った、心のなかで始祖神ライフォスの格言を繰り返す。
『汝の隣人を愛せよ。調和の中にこそ、真の平和は生まれる』
『秩序こそ、平和を守る大いなる盾であり、誠である』
『奪うべからず、騙すべからず、殺すべからず。与え、信じ、命を共有せよ。』
「グレイ、ちょっといいか」
話しかけられて意識が現実へと戻される、目を開けるとこの神殿の長であり僕やアニーを引き取ってくれたウィズダム司祭が立っていた。
「話があるんだ、ちょっと私の私室まで来てくれ」
言われるがままに司祭に着いていった、話というのは恐らく"あの事"についてだろう。
ウィズダム司祭は"高司祭"に当たる始祖神ライフォスの神官だ、かつては冒険者として巡礼に勤しみ今は引退し多くの人々を神聖魔法で救っている。かく言う僕も彼に救い出されたらしい、らしいというのは当時の事をよく覚えていないのだ。彼は僕のために甘い紅茶を淹れながら話しかけてくる。
「まずは誕生日おめでとうグレイ、お前がここに来てからもう10年にもなるのか。」
「それは私も年を取るわけだ、アニーもつい最近20になった訳だしな」
白髪が混じり始めた髪を気にしながら彼は続ける。
「それで、例の話は本当なのか。冒険者になりたいというのは」
「はい、司祭の様にライフォス様の巡礼も兼ねて冒険者として旅をしたいんです。早ければ明日出立しようかなと思っています」
「その話、アニーにはしたのか?」
「……」
僕は口を閉じる、実はアニーには黙って出ていくつもりだった。
「してないんだな」
司祭はため息を付く
「数週間前、アニーはライフォス様のお声を聞いたそうなんだ。実際いくつか神聖魔法も使えるようになった、私は彼女はこの神殿の後継ぎになってもらおうと思ってる。」
「その顔を見るとやっぱり知らなかったんだな、アニーの方からもお前には言わないでくれって口止めされててな。」
「……なんで」
その言葉を口から吐き出すのがやっとだった。
「お前に残って欲しいからさグレイ、あいつはお前と一緒に」
「すいません、何も聞きたくありません」
僕はそのまま立ち上がった。
「っ!おい待てグレイ!まだ話は途中だ、そもそもお前はルーンフ」
「うるさいっ!僕は聞いた事があるんだ、確かにあの時ライフォス様の声を聞いたんだ!」
司祭の声を遮って僕はそのまま神殿を飛び出した、さっきまで晴れていた天気はいつの間にか土砂降りになっていた。構うもんか、濡れることくらいもうどうだっていい。僕は何処へ行くかも決めずにハーヴェスの街中をただ闇雲に走り続けた。
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