第23話 役と役者、そして人

 店に入って奥に進むと、すぐにレオナは見つかった。


「あれ、キミトは?」

「別の買い物に行かせたわ。流石に下着コーナーがある店は恥ずかしいでしょ。お互いに」

「ははは、それは、まあ」

照れながらも肯定する。さては気に入った下着があったわね?

「アンディは?」

「試着中」


 と、試着室を指差す。


「えぇー、これは……いや可愛いですけど、でもなあ……」などと薄いカーテンの向こうから漏れ聞こえる。

 田舎、それも国境近くとなると、前時代的な服装も多い。貿易が盛んな街なら別だが、アンディの故郷はそういった村ではないらしい。となれば都会の服は奇抜に見えるのかもしれない。

 レオナがどんな服を選んだのかは知らないけど、最近は人類種ホミニディエ向けのファッションも勉強中の彼女だ。少なくともサムナで暮らす上で、おかしな格好は選ばないだろう。

少しの間待つと、カーテンの端からアンディが顔を出した。


「いちおう……着替えましたけど……」


 が、顔以外をカーテンで隠したまま動かない。

 視線は落ち着かず、口を不安げに噤んだまま、固まっていた。


「どうしたの?」

「ああ、いえ、その、なんというか……申し訳ないのですが――」

「あ、サイズ合わなかった? 大きい? それとも小さい?」

「いや、サイズのことではなくて……あれ、キミトさんはどうしたんですか?」


 アンディはキャシーの姿を見て尋ねた。

 店の中に入るまで一緒にいたから、気になったのだろう。


「別の買い物をちょっとね」

「買い物、ですか」

「ええ。何か問題ある?」


 問うと、迷うような仕草の後に、震えそうな声を出した。


「――ボク、このままでいいんですか?」

「どういう意味?」

「自分から望んだこととはいえ、人身売買が犯罪なのは知っています。それに、意識はなかったですけど、変な儀式にも参加させられていたんですよね? 挙句に魔人なんてものを……」

「アンディ」

「はい」

「ウチのリーダーはね、大馬鹿者なのよ」

「はい?」

「自分が端役だなんて勘違いして、主役にのし上がろうなんてしている大馬鹿者なの。そんな馬鹿だから、常にどうすれば主役になれるか考えているのよ。例えば、人助けとかね」

「本当に考えてるのか分からないけどね」


 猫獣種フェリディエの笑いに、内心頷く。

 本人はそう言っていたが、人助けに関しては天性のものなのだろう。

 その証拠に、口では色々言うくせに駆け出すのは一番早い。


「だから役者を手放したりはしないわ。例えそれがどれだけ危険でも……いいえ、なおさらね。あの子は悲劇を好まないから」

「……ボクも役者、ってことですか」

「そうよ。だから安心なさい。アナタの魔人も、キミトがどうにかしようって足掻くから」

「…………」


 何を言っているか、分かっていなさそうな表情だった。

 それもそうだろう。自分だって会ってすぐの他人にこんなこと言われたら困る。

 それに、これはあくまでキミトの信条だ。


「別にアナタまで付き合う必要はないのよ。アンディはアンディの好きなことをなさい」

「ボクの……」

「と、いうわけでアタシも好きなことをさせてもらうわー!」


 不意を突いてカーテンを思いっきり引いた。


「うわぁ!」「あらやだ似合うじゃない。とっても可愛いわー!」「じゃあ次はこういう系とかどうかな⁉」「ちょ、ちょっと待ってくださーい!」

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