第22話 ショッピングスタイル
家に新たな入居者を迎えた時、すべきことは何か。
そう。その人物の日用品の準備である。
公人達は商業区・東にやって来た。
サムナは広大な都市だ。故に似た機能を有した区画が幾つかあり、ここは三つある商業区の内の一つ。普段の買い物でもよく来る場所だ。
市場を中心に、古今東西から集められたものや、サムナで作られた品物の数々が店舗ごとに並んでいる。
日用品のみならず、工芸品や飲食店も軒並び、デートで訪れるカップルも珍しくない。
「初手服かー」
キャシーの案内で最初に着いたのは、女性物の服屋だった。
ショッピングモールの中にある服屋をそのまま外に出した感じの露店だ。
外ではハンガーに掛けられたセール品、内側には新作が魔道具の光で輝いている。価格帯も比較的リーズナブルで、
こういった店に目を付けるのは、流石はキャシーといったところだ。
「食器や寝具は来客用の物があるから、急いで買う必要はないしね。それよりも、いつまでもこんな格好させるわけにもいかないわ」
それはその通りだ。
傍から見れば、アンディの格好は痴女めいている。
ここに来るまでに何人の男が鼻の下を伸ばしていたことか。今更だが遠出用のマントでも使わせればよかった。
「ねえねえ、こういうの似合うんじゃない? それともこっちの方がいい?」
「い、いや、そもそもボク……」
「遠慮しなくていーから。あまり有名じゃないけど、私達だって蓄えはあるんだから」
「そういう意味じゃ……」
「可愛い系とオシャレ系どっちが好き? アンディはどっちも似合いそうだなー。とりあえず両方試着してみよっか」
「ああ、レオナさん引っ張らないで……!」
流れるように店の奥へ進んでいく二人。
いつの間にあんなに仲良くなったのだろう。レオナはセーネ達とも仲が良いし、社交性の高さもあるだろうが、やはり正真正銘女子同士だと話も盛り上がりやすいのかもしれない。
どこぞの筋肉女装家はトーク力こそ高いが、はやりヴィジュアルがネックか……。
「あのね。何考えているか分からないけど、アタシも心は乙女なのよ」
「性別はともかく乙女って歳かよ」
すっ、と手足をホールドされた。
「コブラツイストぉ!」
「ぐああぁぁぁぁ! なんでプロレス技知ってんだあー!」
周囲の視線が集まったところでようやく解放された。
四つん這いで痛みを耐えている横で「ごめんあそばせー!」と周りに謝罪していた。
「キミト。これ」
ようやく痛みが引けて立ち上がると、何かを手渡される。
小さい紙で包まれたそれを軽く開くと、現金が入っていた。
「アタシと違って、心も男のアナタはここにいても退屈なだけでしょう? アンディの身の回りのものはこっちが買うから、アナタは食料とか生活必需品を買い揃えてらっしゃい」
「別にキャシーのおっさんの財布から出さなくてもいいだろ」
「ちゃんと生活費用に貯めていた共有資金よ。心配しなくてもアタシの懐は痛まないわ」
「そういうことなら」
正直助かった。
女性物売り場の中に男が入るのは、説明し難い気まずさがある。
キャシーのように割り切っていれば別なのかもしれないが、公人はそうではない。ありがたく提案に乗らせてもらうことにする。
「あー、でもそうなると別行動か……」
「何か問題ある?」
「言ったろ。
額を叩かれた。
「あでっ」
「バカおっしゃい。アナタの拘りも理解しているけど。適材適所でしょ。それともレオナと一緒に服選びする? それはそれでアリだと思うけど」
「……分かった。行ってくる」
「そうなさい」
改めて引き受け、公人は来た道を戻った。
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