第19話 女と主役は落とせるか
公人を帰らせた【
ヨーリと秘書が、視線だけを合わせる。
「アイツは白だと思っちゃいたが、こんな情報を持ってくるたァな」
「ですが、単なる報告忘れの可能性もあります」
「昨晩顔合わせておいてか? オレァ自分トコの子分をそンな風には育てちゃいねェ」
「どちらにせよ、裏取りは必須ですね」
「だな」
酒を煽る。
鋭い切れ味が、喉を駆ける。
「ったく、アイツももう少し勘が鋭きゃ望むモンになれるっつーのによォ」
「最近は鈍感系というのも流行っているそうですよ」
「かァー! 鈍感なヤツが女も主役も落とせるかよ!」
●
「……結局何の用だったんだ?」
結局話したのは昨日の件だけ。主の話ではヨーリの方に用事があったように思えたが。
どうにも意図が掴めぬまま、とうとう家にまで帰ってきてしまった。
見た目通り、狸親父という言葉が当て嵌まるような男だ。どうせ表に見せぬ部分で何かを企んでいるに違いない。それを探り当てるには、公人には難易度が高すぎた。
何も言わなかったということは、公人の力を必要とはしていないということ。
悔しくはあるが、これ以上考えても仕方ない。
ドアを開けて、帰宅した。
「ただいまー」
そのままリビングに直行する。
「おかえりー」
「おかえりなさい。パパはなんて?」
「さあ? 結局、昨日の件を報告して終わりだった」
「なにそれ。呼び出されたんじゃないの?」
「こっちが聞きてえよ……お、」
飲み物でも取ろうとキッチンに向かおうとして、気付いた。
「よっ、起きたか」
「あ、はい」
申し訳なさそうに、テーブルの端に身を寄せる少女。
昨日、救出した少女だ。
来ている服はレオナのお下がりか、少々大きい。
残念ながら胸は絶無……、いや、だからこそもう少し近づくだけで、胸元が見えてしまう。
一瞬、誘惑されてしまいそうなのを堪え、彼女の真紅の瞳に集中する。
「お二人から聞きました。助けていただき、ありがとうございます」
派手な
「気にしないでくれ。ついでみたいなもんだ。ああ、俺は伊達公人っていうんだ」
キミトと呼んでくれ、と言いながら彼女の向かい側に座った。
「ボクは、アンドレアといいます。アンドレア・クロッシング。好きに呼んでください」
「アンドレアの愛称ってなんだ?」
「アンディとか、ドリューとかかしら」
「リューはどこから来たの?」
などと短いやり取りをして、アンディに決まった。
「さてアンディ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「あ……はい、どうぞ」
「じゃあ……覚えてるところまででいいんだけど、あそこで何をしてたんだ?」
言いながら、取り調べみたいだなと思った。
事実、取り調べでもあるのだが、ドラマの刑事のように圧迫感を与えていないかと不安なる。
あながち外れでもないのか、それとも単に気まずいのか、アンディは視線を合わせない。
「えっと、どこから話せばいいのか……」
「そうねえ。色々聞きたいのだけれども、まず……」
隣のキャシーが問う。
「あの場所で何をしていたのかしら。それと、アナタから生えていた魔人……あの化物はなんなの?」
「あっ……」
意識はなかったかと思ったが、あの魔人のことはちゃんと自覚しているようだ。
瞬く間に彼女が曇る。
「あー……辛いなら別に、」
「キミト。これはあやふやにしてはダメよ。あれがなんなのか、いったい何が目的であんな儀式をしていたのか、辛そうだからって黙らせちゃダメ。このコに喋ってもらわないと、このコの為にも……アナタの為にもならないわ」
「それは……」
だいぶキツめに注意されてしまった。
公人としては、女の子の辛そうな顔を見るだけで、こっちが辛くなる。
きっと、失恋した女の子を見続けていたからだと自認している。
アドバイスした娘が主に振られ、辛そうにしているのを見続けてしまった。
なぜ主は恋人を作らないのかは分からない。でも、相談された相手が振られたのを見ると、自分のせいではないかと錯覚する。それが、自分の胸を締め付けた。
やがて恋愛問題は関係なく、辛い表情をしている女の子を見るだけで、公人はどうにかしなければと思うようになった。
例えそれが問題の先延ばしになると分かっていても、語るのが辛いなら、喋らせたくはなかった。
けれどキャシーの言うことは正しい。
公人のやり方では、何一つ解決しない。
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