第17話 青い昔の話
異世界に来てから早三年。
公人と主は駆け出しを卒業し、正式に依頼を受けられる立場になってしばらく経った、ある日のこと。
「ごめんね、待った?」
【
先に待っていた公人は、格好付けの為に窓際に立っていて、振り向いた。
「ううん。今来たところ」
内に秘める興奮を抑え込み、あくまで爽やかに返す。
セーネ・ディペンドは、公人達とほぼ同時期に【
よく訓練を共にし、三人揃って熟練者になって、当然の如くチームを組むことになった。
関係も仕事も良好といっていい。距離感も、異性の中でも特段に近い。
――そんな相手からの、待ち合わせの約束。
男女二人、ほぼ密室、異世界。何も起きないはずもなく……。
……告白イベントきたぁぁぁああ!
主と出会って十年以上。思い返せば、いつだって甘酸っぱい経験は主のものだった。
生徒会長を務めた美人の先輩。学校のアイドル的存在の同級生。甘え上手の小悪魔な後輩。いつだって、誰だって、想いの向き先は自分の隣だった。
公人の認識など主の友人といった程度で、「あ、公人君おはよう。今日は主君と一緒じゃないんだね」と二言目には主の話題になる始末。もしかして友達とすら思われてない?
しかし、さらば地球よ。みじめな思い出と共に!
ここは異世界。全ての人間関係はリセットされた。
非モテという氷河期を超えて、今、我が世の春が訪れる――!
「それで、話って?」
駆け出し時代に必死で鍛えた肉体をフル活用し、上がっていく口角を無理矢理抑える。
あくまで、冷静に。生まれて初めての告白をだらしない顔で迎えたくない。
「う、うん。実は、なんだけど……」
同じく窓際まで来たセーネを月光が照らす。
母と同じだと嬉しそうに語った長く美しい髪が、星の明かりすら魅了して、本物の宝石のよりも眩しく輝く。
その中で、ほんのりと朱に染まる彼女の表情。
可愛い……!
この世界の顔面偏差値が高いのを差し引いても、セーネは整った顔立ちをしている。
決して感情からのプラス補正ではなく、学校の三美女にも劣らぬ美貌の持ち主だ。
彼女の兎のような口から、ぽつぽつと、言葉が零れていく。
「相談、っていうか、さ……。聞きたいことがあって」
「うん」
「キミトはさ」
「うんうん」
「……ツカサのこと、詳しいよね」
「…………ん?」
「だからっ……その、……ツカサの好みとか、教えてほしいの!」
言っちゃった! と頬を両手で覆う姿は、紛れもなく美少女だった。
綺麗だった。本当に――主に恋する、美少女だ。
つんっ、と鼻の奥が辛い。
「ぐ、具体的には、好きな食べ物とか、好きな場所とか……好きな、女の子のタイプとか⁉ あー、もう。すっごい恥ずかしいけど、頼れるのキミトしかいなくって。姉さん達の話は色々過激すぎて参考にならないし……」
腹の底から冷えてしまった公人とは裏腹に、セーネは純情な想いに頬を熱くする。
…………なーんか、昔にも似たようなことあったなあ。
放課後にメールで呼び出された空き教室。
遅れて来たのは最近仲の良い女子で、話の内容は
「……主のことか」
「う、うん。いいかな? ちゃんとお礼はするよ」
「別にいいよ。慣れっこだしな、こういうの」
「……?」
短髪が好みだと教えたら、次の日にはもう、あれだけ綺麗だった髪を切っていた。
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