第15話 やったか!?

 どくんっ


 音ではない。魔人から発せられる魔力が、聴覚を誤認させたのだ。

 次の瞬間、見る見るうちに頭部の復元していった。燃やした物の逆再生のように、高速で元の鬼面が生え戻る。


「こうなるんだよ‼」

「私のせいじゃなくない⁉」


 ギッ、と魔人の眼が動く。

 まずい。レオナと違って人類種ホミニディエの平均速度しか出せない公人では、狙われたら逃げられない。


 ――と、その時だ。


 魔人の背中に無数の氷の矢が突き刺さる。

 悲鳴を上げることはなかったが、魔人は大きくよろめく。

 その隙に木陰に隠れた。


「あら、ちゃんと当たるのね。だったら女の子を気にしなくてもいいかしら」


 キャシーの魔術だ。

 自らの頭を破壊した犯人を捜していた魔人の注意は、キャシーに変わる。


「案外つぶらな瞳をしているのね。見られるのは嫌いじゃないけど、あまり他を疎かにするものじゃないわよ」


 魔人の背を、今度は爆炎が襲う。


「――『再構築せよリピート・ミー。篝火の火種よ――』」


 レオナが続けざまに詠唱する。

 そうはさせまいと魔人が振り向くが、注意を逸らした瞬間、キャシーの魔術が炸裂した。

 多くの魔術を無詠唱で即実行出来るキャシーの援護を受け、詠唱を完成させたレオナが魔術を畳みかけて反撃を封じる。

 前後から挟み撃ちを受ける魔人。翼を丸めて少女ごと身を守る。

 このまま防御を続けるつもりか。それはそれで都合が良い。こちらの被害を抑えながら消耗戦に持ち越せる。

 が、そう思ったのも束の間。魔人はレオナが詠唱中かつキャシーの援護が途切れた一瞬を狙って、再び魔力の波を展開した。


 360度の無差別攻撃。


「きゃあ⁉」


 詠唱に集中する為に動きを止めていたレオナはもろに影響を受け、体勢を崩す。

 決して知性が高いようには見えない魔人でも、その隙を見逃すほど愚かではない。

 向けた掌には、魔力が濃縮されて周囲が歪んで見える。

 いくら人類種ホミニディエより猫獣種フェリディエが頑丈とはいえ、あれを受けたら一たまりもない。


「キミト!」

「分かってる!」


 公人は『魔弾』を命中させてから、消していなかった。

 頭が再生するのを確認した後、魔人の真上に移動させた。――より大きなダメージを与える為に。


「いい加減、くたばっとけッ‼」


 腕の動きと連動させ、真っすぐに叩き落とす。


 解放寸前の魔人――その頭から腰まで、魔道の弾丸が一直線に貫く。

 全てを呑み込む極黒の弾丸は音すら貪り、貪欲に魔人をも喰らう。


 今度は頭部だけではない。身体の、文字通り芯を貫いた。

 先程と同様に動きを止める魔人。レオナへと向けた高濃度の魔力は、あっけなく霧散した。

 警戒は解かない。ここまではさっきと同じだ。同じ轍は踏まない。


「今度こそ倒したかな……?」

「だからそういうセリフは……」

「いえ、今度こそ大丈夫みたいよ」


 え? と問う間もなく変化は訪れた。

 まるで粒子のような輝きが魔人から溢れ出し、半透明だった身体が更に薄くなっていく。

 やがて肉眼で捉えられなくなると、粒子もすぐに溶けて消えしまった。

 残されたのは少女だけ。


 その少女が、突然地面に引っ張られる。

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