第14話 魔球放ってデッドボール

魔獣モンスター……ではないよな」


 魔獣モンスターは生物だ。ゲームみたいに幽霊やゾンビが魔獣モンスター扱いされることはない。

 恐ろしくはあるが、あの半透明の姿はとても生物には見えない。

 ありえるとすれば寄生するタイプの魔獣モンスター。だが同じ理由で可能性は低い。


「真面目な話、何か分かるか?」

「使い魔……いえ、違うわね。魔力で編まれた使い魔なら、術者の意識が途切れた時点で消えてしまうわ」

「実は意識がある……ようには見えないね」

「仮にあったとしても、この状況で暴走させ続けている理由がないわね」

「フィットネスとか? 適度な運動は健康にいいしな」

「ねえ。思ったのだけど、大体アナタが率先して脱線させてない?」


 しかし解決策は浮かんだらしく。


「こういうのは、昔から決まった方法があるのよ」

「それは?」

「――とにかく魔力を消費させる。活動不可能な状態まで追い込むわ」

「テレビのコンセントを抜くみたいな手段だな」


 だが分かりやすい。


「幸い、アレ――アレってなんて呼べばいいと思う?」

「魔人でよくね?」

「気取ってるわね……」

「聞いてきたのはお前だろ……!」

「ともかく、あの魔人は無闇やたらに魔力を使っているわ。しかも魔術という型を取らずに、ひたすら効率が悪くね。何が目的かは知らないけど……こっちからちょっかいを出せば、もっと消費させられるわ」

「……それって危なくない?」

「危ないわよ。だから言ったじゃない。どうにかなる魔力量じゃないって」


 キャシーが公人の横に立つ。言いたいことは、なんとなく分かった。


「あの様子、まだ見つかってないわ。今なら――」

「攻撃のチャンスだな」

「はぁあ……」


 大きく、分かりやすいため息だ。


「アナタ、解決しようとはしないって言ってたわよね?」

「解決策を提示したキャシーのおっさんが悪い」

「……ふふっ。そうだね。これはキャシーが悪いよ」

「ちょっと、レオナまで……」

「だって知ってるでしょ? キミトが誰かを助けるのに躊躇しないって」


 ……否定しないし自覚もあるが、知人から面と向かって言われるのは、なんだか恥ずかしかった。

 キャシーは額にシワを寄せて黙ってしまった。

 一方でレオナは覚悟を決めたようだ。一番見識が広いキャシーが危険というにも関わらず、公人を支持し手伝ってくれる。


「いいのか?」

「いいよ。キミトが放っておけないなら、私も放っておけないもん」

「……まったくアナタ達は」


 渋々、といった感じでキャシーも魔力を活性化させる。


「キミト、アナタが攻めなさい。大口を叩くからにはやってもらうわよ」

「ハッ、むしろ望むところだ」

「レオナとアタシはサポートよ。貧弱なキミトに攻撃が向かないようにかき回して」

「了解」

「一言余計だっつの」


 方針が決まると同時に、レオナが飛び出した。

 魔人は即座に乱入者を感知し、今まで無差別に放出していた魔力を対象に向ける。


 ――猫獣種フェリディエはその名の通り、猫の如き俊敏性を持つ種族だ。

 攻撃が向けられた瞬間『強化』を足に集中し、無色透明の魔力の塊をひらりと躱す。

 距離を取り、時には木々をも利用して、次々に襲い掛かる魔力を曲芸じみた動きで華麗にいなしていく。決して近づかず、さりとて無視も出来ない微妙なラインを巧みに保ち、魔人の意識を自身に向ける。


「合わせるわ。好きなタイミングで攻撃なさい」


 そう言って、レオナとは逆方向に走っていくキャシー。


「それじゃ、遠慮なく」


『魔弾』を生み出し、両手で抱える。


「ピッチャー振りかぶって第一球……」


 横を向いて、片足を上げてから――踏み締めた。


「投げたぁ‼」


 投球。

 といってもポーズだけだ。

 物理的に触れることが出来ない『魔弾』は公人の意志によってのみ操作出来る。

 腕の動きに合わせて発射させただけで――故に暴投はありえない。

 手から離れた位置から関係なく、意のままに真っすぐに、『魔弾』はよそ見をしている魔人へ向かう。

 無差別な波は収まっても、攻撃の余波だけでも衝撃は十分。『強化』すら使えない公人では近づかずことは出来ない。

 しかし『魔弾』には関係ない。

 もしも普通の弾丸ならば、余波の影響を受けて大きく弾道がずれていただろう。

『魔弾』は触れるもの全てを消失させる。どんな魔術であろうと、どんな堅牢な壁であろうと、風や重力の影響すら受けない。ただの魔力の余波など――全ての障害など無意味。

 そして無駄に大きい的を外すほど、公人の感覚もズレていない。


「ヒットォ!」


 ――なお野球になぞらえるとデッドボールである。


 だが今は試合ではないし、そもそも野球でもない。

 だから――子供が丸々入りそうな大きな頭を貫いても、何の問題もない。

 頭部を失った巨大な魔人は、電池が終わった玩具のように動きを止めた。

 ガムシャラな攻撃も、無差別な波や余波も、ない。


「終わった……?」

「そういうセリフを言うとなあ……」


どくんっ

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