第12話 主人公になる為には
レッドバンチを弔った後、公人達は一度小屋に戻った。一旦、持ち帰る胴体を保管する為だ。
レオナの話では、子供を含めて十頭のレッドバンチがいたらしい。
迎え撃ったのは五匹。
依頼を達成するには全てのレッドバンチの討伐が必要だ。残り半数も無視してはおけない。
子供も処理しなければならないと考えると、更なる罪悪感が生まれるが
「あれ、いない」
レオナが案内したレッドバンチの巣には、子供どころか通常の動物すらいなかった。
「ここのはずなんだけどなあ」
「……あくまで憶測の域だけれども、レッドバンチには探知の魔術が使えると言われているわ」
と、キャシーが告げる。
「ボスや他のオス達が死んだとき、残ったメスは子供を連れて遠くに逃げるの。普通じゃ知覚出来ない場所でも同じだから、多分魔術で生存確認をしてるんじゃないかってね」
「へー」
「実際には分からないわよ? けど、これを見る限りそう外れた話でもなさそうね」
「逃げたメスはどうなるんの?」
「他の群れに合流するか、子供にオスがいればそのまま育てるかの二択ね。どっちにしろ、元の縄張りに戻ることはないわ」
「つまり……?」
「依頼は無事達成、ってこと」
「しゃー! 終わったー!」
正直、仕事終わりの解放感より、命を奪わなかった方の安心感の方が強い。
思わず諸手を上げた。
「アナタねえ、まだ依頼人への報告がまだでしょう」
「んなもん、あってないようなもんだろ」
「あってあるもんなのよ。何年冒険者やってるの」
――と、気が緩んで雑談に興じていた、その時だった。
突然、地が揺れるほどの轟音が森の中で響いた。
違う。そう勘違いしてしまうぐらいの濃密な魔力の波だ。
この世界に来て早五年。魔術のまの字も使えないが、『魔弾』のおかげで魔力がなんたるかは感覚的ではあるが理解しつつある。
身体の芯から発せられる熱量。それが物理的な衝撃を伴って森を駆け巡る。
波は一瞬で引いた。だが強烈な感覚は簡単には消えない。
「な、なんなんだ今の……⁉」
「さあ……けど普通じゃないわよ。魔術に変換せずにあれだけの魔力を流すのは」
「ど、どうする? 様子見に行ったほうがいいのかな……?」
「馬鹿おっしゃい。下手したら
「と、なると撤退してオヤジに報告か?」
「その前に兵士ね。近くに小規模だけど訓練地があったはずよ。サムナに戻るよりずっと早いわ」
「村人はどうする? 連れていくか?」
「そうね。多分、発生源はそう遠くないわ。村にいるのは危険ね」
「で、でも……」
レオナが割り込む。
「何か崩れたような音がしたよ?」
獣人系の種族は五感を含めた全ての身体能力が
優れた聴力が、公人とキャシーには届かなかった音を聞き取ったらしい。
「それに……気のせいかもしれないけど、悲鳴も聞こえたような……」
「……キャシー、発生源分かるか?」
「ちょっと待ちなさい。『
魔術を発動したキャシーが周囲を見渡す。
やがて公人のやや右、北東の辺りを指さした。
「あっちから強い魔力を感じるわ。
彼にしてはハッキリとしない言葉だ。
魔術に関してキャシーは三人の、いや【
だから意外と感じると同時に――未知の存在がいる可能性がある。
「――よし、行くか」
「待ちなさい!」
歩き出した自分の肩を、キャシーが掴んで止めた。
「アナタ、どこに行く気?」
「どこって、発生源しかないだろ」
「訓練地に行くって話だったでしょう」
「じゃあ二人に頼むわ」
「……アナタねえ!」
珍しくキャシーが怒声を発する。
「自分の実力分かってるの⁉ 最低でも
「別に解決しようとまでは思っちゃいねえよ」
「じゃあどうして⁉」
「悲鳴が聞こえたんだろ」
レオナがはっ、と狼狽える。
「で、でも気のせいかもしれないし……」
「気のせいじゃないかもしれないだろ。だったら、助けを必要としている人がいるはずだ」
「……その心構えは立派よ。けど……」
「止めないでくれよ、キャシー」
分かってるだろ? と訴える。
そうだ。キャシーとレオナは分かってくれている。
その上で止めてくれて、止まらないってことも知っている。
「行かなきゃ俺は脇役のままだ。――主人公になれねえ」
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