2話目
俺はごく普通に中学校に進学して、なにこどもなく中学三年生になった。このまま平和に中学生を終えることになるかと思っていたが、同じクラスには学年1モテる男子の和田がいて、いつも教室がうるさかった。周りの人間全てが子供に見えて、友達も多くない俺にとって、学校に通うことは馬鹿馬鹿しく思え始めた。
誰が誰を好きだとか、あいつは性格悪いとか、そんな話題ばかりで飽きてしまう。ある雨の日、数少ない友達の矢野が話しかけてきた。
「太田さんが和田のこと好きって聞いた? あれマジかなぁ」
普段ならあまり興味がない話題だが、俺と同じタイプの矢野がこの手の話を振ってくるのは珍しく、少し興味が湧いた。
「俺は知らないけど……なになに、矢野って太田さんのこと好きだったりする?」
「ばっ……! そりゃあ、しっかりしてるなぁとは思うけど」
もごもごと言い訳のように返事する矢野。反応を見る限り図星のようだ。太田さんは勉強も運動もできて、書道や作文でもしょっちゅう賞を取っているような、表彰式常連の優等生だ。真面目とか、大人しいという言葉が似合う。俺もどちらかと言うと好印象を持っている。でもそうか、あの太田さんが和田なんかのことを……。男見る目、無いな。
そんなことを考えていたあの日から数日、周りに関心の無い俺でも何度か太田さんが冷やかされているのを見た。顔を赤くして唇をギュッと噛んでいる太田さんがなんだか気の毒だった。人を好きになるくらい、勝手にさせてやればいい。どうして人にそこまで関心が持てるのか、俺にとってはむしろ不思議なくらいだった。
そこから1ヶ月、冷やかしはいつの間にやら嫌がらせに姿を変えていた。矢野によると、冷やかしに耐えかねた太田さんが
『和田くんのことなんてちっとも好きじゃない!』
と強く否定したことが原因らしい。しかも和田が嫌がらせをしているのかと思っていたら、そうではないようだ。どうやら和田は太田さんのことが好きだったようなのだ。和田は傷心し、和田を好いている女子たちは、和田の気持ちを踏みにじった太田さんが許せなかった……らしい。太田さんの恋心を弄ぶのはオーケーで、和田を振るのはエヌジーというのは毛頭理解できないが、そんな状態がひと月も続いていることが問題だということは嫌でも理解できる。
太田さんの話ばかり振ってくる矢野に
「じゃあお前が止めればいいじゃん」
と言ったが、彼は黙ってしまった。優しくて穏やかな矢野だが、それゆえに気が弱い。だからといって、大して仲良くもない女子を庇ってやるほど俺もお人好しではない。どうせすぐ飽きるだろう。俺が行動を起こすまでもない。
……その考えが間違いだと知るのは、そこから少し後のことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます