棚ぼた気分(後編)

「あの、この記憶ってどうにか出来るんですか?」


「どうにかとはどのようなことでしょうか?」

「例えば、記憶を消すことができたり、とか?」

「それは、出来かねます。」

「なぜですか!?」

「記憶を消すという行為は常識を逸脱している為、出来かねるのです。申し訳ありません。」

「そんな」



俺の僅かな望みさえも無くなってしまった

これから俺はこのバカげた前世の記憶と共に生き続けないといけないのか


なんて最悪な人生なんだ



「この場合お祓い等しても気持ち程度の変化しかないと思います。しかし、お話を聴くことで気持ちが楽になるのでしたらいつでも聴きます。」

「お祓いでも無理なのか…話したら確かに楽にはなるけど、お金かかりますよね」

「こちらにいらっしゃったらお代を頂かなくてはいけなくなってしまいます。」

「ん?ここに来る以外に方法って無くないですか?」

「ほ、他の場所とかでしたらお茶しながらなどもう少し話しやすいかなと思ったのですが…忘れてください。」

「それって、いいんですか?」



まじか


予想外な展開になってきたぞ

これはデートになるよな


いいのか!?



「はい。野路様が少しでも気が楽のなればいいと思いまして。」



良くないだろ

男と二人でお茶だぞ

そんな狼なんて無粋な事はしないけど!けど!!

展開が早くて追いつけない

俺が早とちりしているだけなのか?


落ち着け、落ち着くんだ俺。

とりあえず



「そしたら今度お茶がてらに話聴いて頂けますか?」

「もちろんです!」



まじか

…よし、こうなったら腹をくくろうじゃないか


一緒にお茶しながら一回だけ話を聴いてもらおう

そしたら変わるかもしれないしな!



「そしたら場所とか決めませんか?」

「そうですね。おすすめのケーキ屋さんがあるのですが、いかがでしょう?」

「おすすめの場所があるならそこにしましょう。長居してしまったので、時間とかは連絡して決めませんか?」

「わかりました。」



いままで無いぐらいナチュラルに連絡先を聞いてしまった。

その後、お金をこんなに安くていいのか!?っていう金額を払い家に帰った

連絡先を交換して分かったことは名前が咲紅さんという事と、意外とスタンプを使って会話する事ぐらいだ

直接話している時とは全然違う。

うん。かわいい。


当日までが楽しみだ





お茶会という名のデートの日、待ち合わせの5分前についたはずなのだが

それよりも前に彼女が来ていたことに驚いた

楽しみにしてくれたのかと嬉しい反面、待たせてしまった罪悪感がごちゃ混ぜになる



「遅くなってすみません。お待たせしてしまいましたか?」

「いえ、私が早くついてしまっただけですので、お気になさらず。」



その後、二人でケーキを食べながら俺の記憶について話しつつ彼女の仕事やお互いのプライベートについて語った


まぁ、察する通りお互い意気投合して仲良くなった

何回か合うようにもなったし、咲紅のおかげで前世の記憶に悩まされることも少なくなった


が、残念なことにお互い好意を持っているはずなのだがなかなか進めない

友達以上恋人未満になってしまった

これが今世の中で問題になっている草食系の悩みなのか?

たしかに俺の望んだとおり関係は変わったけどな





こうして俺はこの日からバカげた前世の記憶だけでなく、咲紅という悩みの種が増えてしまったのであった。



-Fin-

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