4. 都会の喧騒
「一昨日会ったばかりだよね?」
政治的活動家たちなのか、真昼間の照りつける太陽の眩しい青空の下メガフォンでなにやら永遠と演説する人たちが騒がしい新宿駅東口、これが東京なのかと関心している
「キミってお上りさん?」
「おのぼり?」
「田舎から出てきたの? って意味」
「ああ、はい。栃木から」
「宇都宮とか? 大宮?」
「いえ、那須塩原市です」
「え、めっちゃ観光地じゃん」
「それはごく一部だけですよ。大体はなんにも無い田舎ですし、スーパーなんて車で20分は当たり前だし、4月なのに山なら雪降るし」
「へえ、じゃあキミは山っ子なんだ」
「ええ、両親が別荘地エリアのログハウスの管理とか販売してるんで」
「なーるほどねえ。やっぱりこっちの方が色々多いでしょ?」
そういうとしうの視線が人でごった返すアルタ前でぴたりと止まる。それにつられるように藍も視線を移すも、特に何が視えるでもなく人の多さにただたじろぐ。
「……しうさん?」
「あそこにさ、この前女の人引き込んだ奴がいるんだよね」
「……先週の?」
「そう、先々月くらいからかな? 頻繁に視るようになったのは。この街って平気でバンバン人が死ぬわけ、歌舞伎町にある第6トーアとかめっちゃ飛び降りるし。まあ、でね? そういうの多いから気にしてなかったんだけど、あいつは違うんだよ」
「全く話が見えないんですけど」
「自死、他殺で霊が違うのはわかる?」
「なんとなく、匂いで」
「よしよし。じゃあ、その中でも自死の中でも自らの意思でと結果論自らの意思だけど、その背景に他人の責任があるで霊が違うのはわかる?」
「……多分?」
「おけおけ、もしかしたら初体験になるかもなあ。背景に他人の責任があると恨みって増すと思わない? 他殺の霊の憎悪って半端ないでしょ? 鼻取れそうになるんじゃない?」
「はい」
「それと同じ考え方で考えてね? そもそも自死って宗教的に許されてないわけ。まあー、言っても今って無宗教の人が多いけど無意識に無自覚に刷り込まれて魂に刻まれてるわけ」
「宗教観がですか?」
「そう、だって私たちって意味がわかってなくても小さい頃からお盆とかお彼岸とか……あとは初詣になんだ? 神頼みとかしてるでしょ?」
「なるほど、無意識の習慣ってわけですね」
「許されていない行為をしたことによって無意識の罪悪感が生まれる、大体自死は基本彷徨うからね。楽に逝けはしない、最悪死んだ場所に縛られて、そのまま長い年月が過ぎて自分を忘れて恨みを忘れて……そして、ようやく離れる。
まッ、そこは今回関係ないんだけど。罪悪感と他人の責任、ここで言うと他人への恨み辛み憎しみ。それらが混ざるとどうなると思いますか?
「…………人を呪う?」
「せいかーい。では、あそこにいる霊はなんなんでしょう?」
「他人の所為で自殺した霊?」
「大正解」
パチパチパチと手を叩くしうに本気で照れる藍、そんな彼の手首を握ったかと思うと土曜日の昼間の人の波を駆け抜ける。突然のしうの動きに足をもつれさせながら、転ばないように何とか体勢を維持し、微風に吹かれ後ろへと流れるピンクベージュの髪が流れるのを目で追う。
「……臭い」
「キミって視えはしないんだよね?」
「はい、でも小学生の頃はハッキリと……匂いと一緒に。ただ、いつからかこの腐ったような変な悪臭だけが残って。死の匂いなのか幽霊の匂いなのか。単純に、死臭を敏感に感じてるだけなのかもしれないですね」
「死臭だとしてもキミが臭いと思ったところには必ずいるんだから本物だよ」
「本物……ですか」
横断歩道の信号機が赤に変わり、人の流れが止まる。
行き交う車やトラック、それらをものともせず車道の真ん中を映すしうの目には薄汚く黒くアンバランスに頭の部分であろうものが大きく肥大し、辛うじて首とわかる身体との結合部分が生きている人間が曲げることのできぬ方向へ向けた二メートルはゆうにある存在が立っていた。
「この前よりもキツさが増してますね」
「うん?」
「臭いのがです」
「……味を占めたか、何か晴れたか。恨みが増したか、中身がドロドロしてる」
「え、しうさん霊が視えるだけじゃないんですか?」
「後悔、懺悔、恨み、辛み、愛憎、愛情、その他もろもろ。生きている人間よりわかりやすく見えて私は好きだよ」
そう呟くしうの表情はどこかもの寂しく、藍がかけれる言葉もなく騒がしい人々の声とクラクションの音だけが耳に流れ込む。
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