第2話 ダンジョン探索~狼犬を添えて~

□主人公



「よし、行くか!」

「ワオン!」


 初めてダンジョンに入った日から三日後。

 これから俺たちは、本格的な探索を開始する。


 それとこの三日間で分かったのだが、どうやら世界的にダンジョンが出現しているようだ。

 そして基本的にはダンジョンを見つけたら通報しなければいけないらしい。まあ当然の対応ではあるな。従うつもりはないが。


 誰が通報するかってんだ。こちとら生粋のオタクゲーマーだぞ? 自分しか知らないダンジョンが在るなら、隅々まで探索したいに決まってる。

 幸い、ここは田舎の方で家族も今は東京の方に転勤しているため、このダンジョンを知るのは俺だけとなる。


 これは準備の段階で分かったんだが、どうやらスキルはダンジョンの外でも使える様だ。

 始めてのダンジョンの後、何時もならへとへとになる距離を歩いたにも関わらず、疲労感を感じなかった。


 もしやステータスのお陰なのではと思い、試しに切れ味の悪い包丁に≪付与・威力アップ≫を使ってみたところ、野菜を何の違和感もなく切れ、まな板まで切れていた。


 この事から、スキルやステータスの支援はダンジョンの外でも問題なく発揮でき、その上かなり強力な事が分かった。


 レベル1の時点でかなり強いと言うことは、逆にこれ位無いとモンスターにはかなわないと言う事。


 そう考え、死にたいわけではないので三日かけて万全の状態を整えた。


 そして何故か愛犬も一緒だ。

 確かにこの子は狼犬。通常の犬より戦闘力は高い方だと思うが、ダンジョンは未知の領域。

 

 正直、この子を失いたくないからお留守番して欲しいが、一人だと心細いのもまた事実。色々と悩んだが、結局一緒に探索することにした。


「さて……そうこう考えている内に、前来た場所まで到着だ。」


 ここからは、本当に何が起こるか分からない未知の領域。呆気なく死ぬかもしれない。絶望しながら終わるかもしれない。


―けれど、この胸に宿る思いは高揚感、未知への期待。


「さあ、俺たちの冒険を始めようか!」

「ワオォォォンっ!」




▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽




―そう考えてたんだが……。


「全っ然ッモンスターがでねぇぇぇーーーーッ!!」


 あと景色が変わらねぇ! 何なん? かれこれ二時間歩いているが最初の洞窟と景色が全く変わらん!

 いや、景色が変わらないのは分かるぞ? ダンジョンだからな。

 だがっ! モンスターのモの字もでねぇのはどうなってんだ! 全っく、モンスターが見当たらない。

 

 楽しみにしていたゲームの新作の発売日が当日に先延ばしされたような、凄まじい出鼻を挫かれた感。


 こうなったら絶対にモンスター一体倒すまで帰らないからな!




▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽




「GUGYAァ!」


―……やっと見つけた。


 あれからもう一時間歩いたら、洞窟の横幅が少し大きくなり岩陰からモンスターが現れた。

 お相手のモンスターは、小学三年位の体格に緑の肌、そして不細工な顔。

 そう、お馴染みのゴブリン君です。数は一匹。


「GYAっ!」

「っと、危な!」


 こちらを見つけたゴブリンは近くまで接近すると、その手に持っている木の棍棒らしき物を振り下ろす。


 ゴブリンの一撃は、武術の経験がない俺から見ても遅く拙いので簡単に避けることができた。


「ガウォゥッ!」 


 攻撃が空振り、ふらついた所を俺の横から飛び出した凛狼が腕に噛みつく。


「GYAァっー!」


 たまらずゴブリンが倒れ、凛狼は腕に噛みついたままゴブリンを抑えつける。

 その間に俺は用意した武器の一つ、金属バットを取り出す。


「≪付与・威力アップ≫! うおおおッ!」


 そして、抑えられているゴブリンの頭部に向かって威力を上げたバットを思いっきり振り下ろす。

 ゴブリンの頭部は、つぶれたトマトの様になり動かなくなった。


「うえぇっ、グロい……」


 少し経つと、頭部を潰されてピクピク痙攣していたゴブリンの体が小さい光の泡となって消えた。


〈ダンジョンで初めてモンスターを倒しました〉

〈クエスト履歴を検索中……確認しました〉

〈クエスト[初めての討伐]をクリアしました〉

〈報酬:選べる初級のシリーズ装備チケット、初級のポーション×5〉

〈ダンジョンで初めて従魔がモンスターを倒しました〉

〈クエスト履歴を検索中……確認しました〉

〈クエスト[初めての従魔使役]をクリアしました〉〈報酬:<テイマー向けランダムスキルチケット>・<初級のランダム従魔装備チケット>・パッシブスキル≪従魔管理≫〉

〈ダンジョンで初めて従魔のレベルが上がりました〉

〈クエスト履歴を検索中……確認しました〉

〈個体名:「神付従月」はクエスト[初めての○○シリーズ]の報酬を最大受け取り可能回数クリアしています〉

〈以後、クエスト[初めての○○シリーズ]の報酬は経験値に変換され、メッセージを省略します〉

〈レベルが上がりました〉

〈従魔のレベルが上がりました。〉



 今回も情報の量が多いな! ええいっ面倒な!まとめて≪鑑定≫だ!



――――――――――――――――――

<選べる初級のシリーズ装備チケット>

:以下の中から選んだ装備を入手できる。

<初級の剣シリーズ><初級の杖シリーズ><初級の弓シリーズ>


<初級のポーション>

:切り傷等の軽い怪我を瞬時に治すことができる。疲労を少し和らげる。


<テイマー向けランダムスキルチケット>

:従魔がいる人向けのスキルチケット。以下のスキルをランダムで習得できる。

習得可能スキル

:≪従魔強化≫≪空間収納・従魔≫≪指揮者・従魔≫≪意思疎通≫≪従魔騎乗強化≫


<初級のランダム従魔装備チケット>

:従魔の種族に合わせた初級装備がランダムで入手できる。


≪従魔管理≫

:従魔のステータスとスキルが分かり、進化選択などができる様になる。

――――――――――――――――――



 まず、従魔って凛狼の事で合ってるよな? 何となく予想できるが……ステータスが見れるんだったら確かめてみるか。



――――――――――――――――――

≪従魔管理≫

従魔一覧

:凛狼<ステータス管理>

――――――――――――――――――



 ふむふむ、これでステータス管理をおせばいいのか?



――――――――――――――――――

<従魔ステータス>

<名前>:「凛狼」

<称号>:なし

<親愛度>:100%

<種族>:[魔狼犬まろうけん:Lv2]

<スキル>

[ユニーク]:≪≫

[所有スキル]:≪魔狼戦闘術Lv1≫≪嗅覚強化Lv1≫

<魔法>:【】

――――――――――――――――――



 え、魔狼犬?

 ……推測では、生き物がダンジョンに入るとダンジョンに適用して、異なる種族になるって感じか? それともこの子がモンスターを倒したからか?


 いや、今のところ何かあるとアナウンスがあるはずだ。何も言ってこないってことは、推測の方が濃厚か? う~む、分からん。

 まあ、そんなことより親愛度だ! そうかそうか! そんなに好いてくれているのかぁ~!


「よ~しよしよし! 俺もお前のこと愛してるぞ~!」

「クゥンっ~!」


 傍で待機していた愛犬を押し倒し、全身を撫でまわす。

 スゥゥーハアーーっ、たまらん! この全身モフモフなのに適度に野性的な肉質! 甘え上手な可愛い声! 存在自体がもう最高!




―それから三十分後。




「はっ!俺は何を?」


 まだ色々確認中なのについ嬉しくて撫でまわしてしまった。

 さて、とりあえずスキルを確認するか。どれどれー?



――――――――――――――――――

≪魔狼戦闘術≫

:魔狼の中でも人間と変わらない知性がある者が生きるために編み出した魔狼種専用の武術。魔力を体内で循環させて身体能力を大幅に上げる。

使用可能戦闘術

魔狼ノ牙まろうのきば断牙ダンガ≫≪魔狼ノ爪まろうのけん疾風しっぷう


≪嗅覚強化≫

:色々なモノを匂いで感じる事ができる。

――――――――――――――――――



 ん? これ、俺より強くない?

 間違いなく、攻撃力では俺を上回っている。

 何より技がカッコイイ! これは是非見たいものだ。


―さて、一旦従魔は置いといて。


 報酬で手に入れたモノを確認するか。

 まず、気になるのは<選べる初級のシリーズ装備チケット>だ。

 これは名前的に、初心者用の装備が手に入ると思う。

 

 問題は何を選ぶべきか。

 従魔が近接で戦うことを考えると選ぶべきは遠距離で支援できそうな弓だが、俺は弓なんて一切触れたことがない。

 幸い、ゴブリンが思った以上に弱かったから今のうちに練習できそうな気もするが、ぶっちゃけて言おう。

 

 従魔と共に前線で戦う男……カッコよくない? てことで、装備は剣シリーズに決定! はい、チケット破いてっと。


〈チケットを使用しました。<初級装備シリーズ・剣>が選択されました。〉

〈<初心者用の剣>・<皮のチョーカー>・<皮の胸当て>・<皮の腕当て>・<皮のグローブ><皮の腰当て>・<皮のブーツ>を入手しました。〉


〈すぐに装備しますか?〉


 勿論、すぐに装備する!


〈装備完了しました。〉


 ジャージの上から皮の装備が装着される。


 見た目はまさしく初級の剣士って感じ。

 首にチョーカーが付き、胴体は胸部の全体を覆う感じで装着されてる。

 腕は肘から手首にかけて外側が保護されており、手には指ぬきグローブが装着されている。

腰回りは横側が覆われており、足は膝まであるブーツを履いている。

 そして、腰の左側に剣が装備されていた。


 鞘から剣を抜き、目の前で掲げる。


「かっ、カッコイイ……」


 少し剣身が短い、ショートソードって種類だったか?

 予想よりも軽く、振り易い。成る程、初心者用の剣と言われるのも良く分かる。

 おっと、感動するのも程々にしないとな。確認することはまだまだあるからな。



 よし、次にいくか。

 <初級ポーション>はその名の通りだから置いといてっと。

 次は<従魔の初級装備>か。これも鑑定結果の通りっぽいな。装備させてみるか。


「凛狼~」

「ワオン?」

「これからお前に装備付けるから、少しじっとしていてくれ」

「ワン!」


 さて、チケットを破いてっと。


〈チケットを使用しました。<従魔の初級装備・魔狼種>を確認しました。〉

〈<追い風のスカーフ>を入手しました。〉


〈装備させますか?〉


 はい、お願いします。


「ワォォン!」


 凛狼の首輪の上に、薄緑色のスカーフが巻かれる。

 おお! 灰色の毛並みとよく似あう! 家の子が更に可愛くなってしまった……尊い……。


―さて、いよいよ最後のアイテムだ。


 この<テイマー向けランダムスキルチケット>。ランダムではあるが、どれもすぐに使えそうなスキルばかり。

 欲しいのは、≪従魔強化≫と≪意思疎通≫の二つ。特に≪意思疎通≫がかなり欲しい。

 名前的に、凛狼の言いたいこと分かりそうだしな。チケットを破く。


〈スキルチケットを使用しました。<ランダムスキル・テイマー>を確認しました。〉


 頼む、≪意思疎通≫来い!


〈スキル≪空間収納・従魔≫を習得しました。〉


 来なかったか。まあランダムだし仕方ない。

 しかし、≪空間収納・従魔≫か。従魔を空間に収納できる感じか?

 ≪鑑定≫使うか。



――――――――――――――――――

≪空間収納・従魔≫

:従魔を異空間に収納することができる。異空間は、従魔が増える程に広くなり、それぞれに合った環境が追加される。異空間には、自分も入ることができる。

――――――――――――――――――



―大当たりじゃん………。

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