go


" go "

横断歩道の白線と共に、投稿した。


家では、決まった時間に仕事を開始し

音楽の作曲、マネージャや取引先のブランドと打ち合わせ。

今は新しい架空イベントに合わせて音楽とファッションのコラボを企画しているため、ディスプレイ越しの面談が多い。

外出した時間の半分は医療機関での診察と検査結果待ちで費やされてしまい、やりたいことなど限られている。

消耗品の電子タバコの替えと、新しい衣服を購入し-代理人が購入などをするため自分は事前に部屋でオーダーしたものと間違いないかバスで待機、確認する-どこにいくにも衛生省の係が見張っていて落ち着くこともできない。

かえって、外に出るほうが億劫になってきている。

それでバスからは一度たりとして降りずに、帰るのだった。

これが俺らの唯一許された外出。

そうして1日が終わってゆく。


誰かに会ったり話したりするのはこのディスプレイ以外にない。

今日は早めのディスプレイ打ち合わせが終わったので、昼食のために席を立つ。

そのとき、玄関の郵便受けがカタと動く音がした。

郵便の時間には早い気がするが…

郵便受箱を覗いてみると、紙切れが入っていた。

" お隣さん、どこか行くのですか "

読んだ瞬間、隣人の歌声があたまのなかでリピートした。

話がしたいのだろうか。

事務所の契約で一般人との交流を控えるという一筆をしてある。

これは交流というものか?

いや" 近所付き合い "ならよいだろうか。

まずは牽制を兼ねて、小さな葉書に万年筆で青みのフラッシュの鮮やかな偏光カラーインクで返事をした。

" 紙は証拠が残る。探偵なら他の方法を見つけるはずさ "

サインはしなかった。

彼はすでに俺が何者であるかをよく理解している《sweety》のひとりだろう。


翌朝も、またポストから音がした。

困ったものだと、また中から紙を取り出した。

個人のIDと、メールアドレスだけが書いてあった。

そこまでして、どうしても話したいのか。

この子だけ特別に扱うのはよくないことだが…

普段なら受けない要求を不思議と飲んでしまう。

つまり、どうやら俺も、彼に興味があるらしい。

パソコンに向かって、メールを打ちはじめた。

ここから彼との不思議なやりとりがはじまるのだった。

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