第138話 新人冒険者講習の朝
いよいよ、今日が新人冒険者講習の当日となった。
「行ってきます」
ヴィムはハナとミサを連れて屋敷を出た。
今回、ディアナは留守番ということになった。
ディアナは行くと騒いでいたが、ディアナが出てきたら色々ややこしくなるから留守番させておいた。
「眠たいな」
時刻は朝の七時、集合時間はギルド本部に七時半となっていた。
「ちゃんと寝てないんですか?」
「うん、なんか寝付けなくてね」
「ヴィムさんでもそんなことがあるんですね」
ハナと話ながら、ギルド本部へと向かう。
ギルドの前には、装備から見て駆け出しの冒険者と思われる者が集まっていた。
「結構、集まるんですね」
「ああ、そうだな」
ざっと見るに五十人ほどが集まっていた。
これから、もう少し増えると思われる。
「ギルマス、おはようございます」
「おう、おはよう」
「結構集まりましたね」
「いや、過去最高の人数だよ」
そう言って、ギルマスは苦笑いを浮かべた。
「そうなんですか?」
「ああ、いつもなら申し込みも三十人くらいなんだがな」
普通にみても、その倍はいそうな人数だった。
「ヴィムたちが講師をやるというのがここまでの効力をなすとはな。講師陣が足りなくなったから、急遽わしも講師として参加することになったわ」
「それは、珍しいですね」
「講師は人手不足と言ったろう?」
ただでさえ人手不足の状態でヴィムの名前を出したら、申し込みが殺到するという本末転倒なことになってしまったのだ。
ギルマスも現役時代はAランク資格を持つ冒険者だったと記憶している。
実際に戦っている姿は見たことはないが、経験と実績は確かな男だ。
「まあ、今日からよろしく頼むぞ」
「ええ、後輩の教育にお力添え致しますよ」
ヴィムとしても、後輩の冒険者には一人前に育ってもらいたい。
優秀な冒険者が育てば、それだけ国の戦力も強化されることになる。
特に、実力主義国家であるレオリア王国では、他国より冒険者の地位が高く評価されている。
ヴィムやミサのようにSランク冒険者になれば国政にも多少なりとも影響を及ぼすことができるのだ。
ギルマスと話しているうちに集合時間の十分前となった。
ギルド本部に隣接する、広場が開放され、新人冒険者たちはそちらへ集められた。
集合時間の十分前には全員揃ったらしい。
ヴィムやミサ、ハナがその場に近づくと周囲からはざわめきが上がった。
「おい、あれ」
「ヴィムさんのパーティだ」
「イケメンと美少女のパーティとか羨ましい」
駆け出し冒険者たちの声が届く。
こういう機会でも無いと、ヴィムと会うことは無かったかもしれないのだか、感動するのも無理は無い。
Sランク冒険者というのは、冒険者の頂点。
冒険者を志す全ての者の憧れなのである。
ヴィムたちの他にも講師人は二十人と少しいるらしい。
今回は、ヴィムやミサの名前があったので講習希望者が殺到したというのも無理は無い。
ヴィムもミサもSランクに認定されているので、冒険者の中では知らない者は居ないほどに有名になっている。
また、ハナも孤児から成り上がったAランク冒険者として駆け出しの冒険者からしたら憧れの的だという。
そして、難攻不落の迷宮と呼ばれていたモール大迷宮を攻略してしまったのも、相乗効果になったと思われる。
「お、そろそろ始まるみたいだな」
「そうですね」
広場に集まった冒険者たちの前に、講師陣と王都ギルド本部のギルドマスターが立つ。
「良く集まってくれた。今回は、新人冒険者講習ということで、この一週間で冒険者としての知識や技術を講師陣から吸収してくれ」
ギルマスが講師を代表して挨拶をする。
忙しいはずのギルマスも今回の講習では一クラス受け持つと聞いている。
そして、今後の流れを説明する。
「今回は五人から七人グループを一班とする。五人班には講師は二人、六人班、七人班には講師を三人つく形になると思っていてくれ」
講習といっても、実践がメインになる形だ。
講師との模擬戦や、レベルの低い森やダンジョンに潜るといったものだ。
講習内容をどうするかは、基本的に講師たちに任されているので、講師の裁量で決めることができる。
「それでは、今から班割を発表する」
そう言って、ギルマスは次々と班割を発表して行く。
今回は全部で八班に分けられたようである。
グループに分かれた冒険者たちは、挨拶をして担当講師は誰になるのかと期待している。
「ヴィムさんのパーティがいいよな」
「そうだよね。Sランク二人とAランクがいるパーティなんて他に無いもんな」
「でも、厳しいのかな……」
そんな駆け出し冒険者たちの声が聞こえて来る。
今回の講師は、基本的にパーティに所属している者同士で一緒のグループを担当することになっている。
「A班担当講師。Aランク、テール、Bランク、アリー……」
そして、ヴィムたちの順番が回って来る。
「C班担当講師。Sランク・ヴィム、Sランク・ミサ、Aランク・ハナ」
ヴィムとハナ、ミサはCグループを担当することになった。
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