第137話 武器の修理

 新人冒険者講習まで、あと三日人に迫ってきていた。

ヴィムがリビングのソファーに座って、書類の山と格闘していると、ミサが声をかけてきた。


「今日はここでお仕事ですか?」

「ああ、誰かの視線があるとサボらないからな。どうかしたか?」

「この剣が刃こぼれしてしまいまして、どこか急ぎで直してもらえる所はないかと」


 ミサが鞘から剣を抜くと、確かに刃こぼれしている箇所があった。


「できれば、新人冒険者講習の時までには直したいんですけど、そんなに急ぎでやってくれる所ないですよね?」


 新人冒険者講習までは後三日である。

通常なら、一週間ほどはかかってしまうだろう。


「イーグさんの所なら早いかもな」

「イーグさん?」

「ああ、俺が良くしてもらっている武器屋の店主だよ。一緒に行ってみるか」


 そう言って、ヴィムはソファーから立ち上がった。


「お仕事はいいんですか?」

「うん、キリのいい所までは終わったしね」

「ありがとうございます!」


 ヴィムはローブを羽織ると屋敷を出た。

王都の大通りから一本外れた所に、目的の武器屋がある。


 剣と盾をモチーフにした看板が出ているので、一目で武器屋だということがわかる。


「ここだよ」


 ヴィムは分厚い扉を開いた。


「いらっしゃいませー」


 オレンジ色の髪の毛をした美少女が出迎えてくれる。

その子を見ていると、ここが武器屋だということを忘れてしまいそうになる。


「親父さんいるか?」

「はい、ちょっとお待ちくださいね。おとうさーん、客さん」


 その声を聞いて、奥からガタイのいい男性が出てきた。


「おお、ヴィムじゃないか。今日は、どうした? 新しい武器が必要になったか?」

「いや、そうじゃないんだ。親父さんなら、彼女の剣を直せるかと思ってな」

「そっちのお嬢さんのか。ヴィムの連れだ、見せてみな」

「お願いします」


 ミサは鞘から剣を抜くと、親父さんに渡した。


「刃こぼれしちまっているな。でも、このくらいなら直せるぞ」

「どのくらいかかりそうだ? できるだ急ぎでお願いしたいんだが」

「今日の夕方、取りに来れるか?」

「え!? そんなに早く仕上がるんですか?」


 ミサは驚きの表情を浮かべていた。


「お嬢ちゃん、最近Sランクに認定された月光の騎士さんだろ? 深淵の魔術師に続いて月光の騎士さんの剣を直せるなんて、光栄なことはないよ」


 そう言って、親父さんは笑みを浮かべる。

職人魂に火がついてしまったようである。


「お嬢さん、鞘の方も預からせて貰えるか?」

「はい、お願いします」


 騎士服から、鞘を外すと親父さんに渡す。


「じゃあ、よろしく頼むよ。夕方には取りに来る」

「おう、任せときな」


 親父さんは剣を預かると、奥に引っ込んで行った。


「じゃあ、また夕方に取りに来ようか」

「はい、そうですね」


 ミサは何やら落ち着かないという様子である。


「剣がないと落ち着かない?」

「そうですね。ずっと一緒に戦ってきた剣ですので」

「大丈夫だよ。親父さん、ああ見えて腕は確かだから」

「ヴィムさんがそう言うなら間違いないですね」


 ヴィムとミサは一度屋敷に戻ることにした。

出来上がるまで、ミサはソワソワとしている様子だ。


 書類仕事をしていると、時刻は夕方となり空が茜色に染まりつつある。


「そろそろ出来上がる頃だな。行こうか」

「はい!」


 ミサは嬉しそうに返事をする。

武器屋までの道のりを二人並んで歩く。


「どんな仕上がりになっているか、楽しみです」

「そうだな。俺も剣の手入れはお願いしたことは無いからな」

「そういえば、ヴィムさんはなんであそこの武器屋の方とお知り合いなんですか?」


 ヴィムは魔術を主にする戦い方なので、剣や槍を持たない。

なので、魔術師が武器屋に出入りするのはあまり無いのだ。


「あそこは、魔石なんかも扱っているからな。たまに買っているんだよ」

「そうなんですね」


 イーグの親父さんが仕入れる魔石は上等なものが多いから助かるのだ。

武器屋に到着すると、分厚い扉を開く。


「こんにちは」

「おう、仕上がっているぞ」


 そう言って、親父さんは鞘に収められたミサの剣を手渡してくれる。


「確認してくれ」

「はい」


 ミサはゆっくりと鞘から剣を引き抜いた。


「嘘、綺麗に直っている……」

 

 刃こぼれしていたミサの剣は、まるで新品のように綺麗になっていた。


「これだけの技術をこんな短時間でなんて……」


 ミサは驚きを隠せないようである。

そして、ミサはその場で数回素振りをした。


「問題ないか?」

「はい、すごく扱いやすくなっています!」

「そりゃ、よかった」

「あの、お代は? いくらですか?」

「いや、金はいらないよ。こいつのおかげで儲かっているからな」


 親父さんはヴィムを指刺して言った。


「え、本当にいいんですか?」

「ああ、その代わり、これからもうちを贔屓にしてくれよ」

「もちろんです。こんなにいい腕をした武器職人がいるお店なら、これからも使わせてください」

「嬉しいこと言ってくれるね。また、手入れさせてくれ」

「では、今日はお言葉に甘えます」

「あいよ。ありがとうな」


 そうして、ヴィムとミサは武器屋を後にした。


「な、いい人だろ?」

「はい、とってもいい方でした」


 イーグの親父さんは強面なので、初対面では怖がられるが、とても優しい人なのだ。


「ヴィムさんに聞いて正解でした。まさか、こんなに早くて綺麗に直してくれるなんて」


 ミサは腰に刺した、綺麗に手入れされて剣に手をかざして言った。

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