第89話 セレンの街
当初の予定よりはだいぶ遅くなってしまったが、ヴィムたち一向はセレンの街に到着した。
「ヴィムさん、着きましたよ」
ミサの声で目を覚ます。
どうやら、完全に眠ってしまっていたらしい。
「ごめん、めっちゃ寝ちゃってた」
「いいんですよ。それほどお疲れだったんでしょう」
泊まる宿に到着すると、失った血を取り戻すべく、食事をして早々に休む事にした。
また明日は朝から出発する事になるだろうし、流石に魔力を使いすぎた。
まあ、もう八割ほどは回復しているのだが、血液はそう簡単に取り戻されないらしい。
「じゃあ、おやすみ」
「はい、また明日です」
ハナたちと別れるとヴィムはベッドに横になる。
そして、すぐに意識を手放した。
♢
翌朝、出発するためにヴィムは着替えを済ませて外に出る。
外には既に騎士団とハナとミサの姿があった。
「すみません。遅れました」
「いえ、大丈夫ですよ。時間通りですから」
昨日は暗かったため、街の様子がよく分からなかったが、今見てみると街の様子が少しおかしく見えた。
「なんかこの街、活気があまりないように見えませんか?」
「そうですね。昨日の魔人や魔獣の影響が少なからず出ているのかもしれませんね」
ここは魔人が出現した地域から一番近い街である。
街の規模からも考えて、戦闘職である冒険者や騎士という人間は少ないのだろう。
魔獣が大量に出現したら多かれ少なかれ被害を被っているのだろう。
元々、グリフィントは戦闘職が他の国比べても少ないと言われている。
だからこその今回、レオリアとの同盟の話が上がったのである。
「お話中失礼します。そちらの家紋はレオリア王国の方々とお見受けいたしますが、お間違いないでしょうか?」
そこには初老の男と青年が立っていた。
「はい、レオリア王国騎士団の者です」
カミル団長が少し警戒した目を向けて言った。
「これは失礼。私はセレンの街を預かっているマーレイと申します」
セレンの街を預かっているということは、この街の領主様である。
「こちらこそ、失礼しました!」
カミルさんが粛々と頭を下げる。
「頭を上げてくれ。頭を下げるのはこちらの方だ」
マーレイと名乗った領主はヴィムの方に視線を向ける。
「あなたがレオリアの大使であり、深淵の魔術師殿だね」
「ええ、ヴィム・アーベルです」
深淵の魔術師の名前がまさか他国まで届いているとは思っていなく、ヴィムは驚いた。
「魔人と魔獣の群れを討伐してくれたそうじゃないか。心から感謝する」
そう言って領主マーレイは頭を下げた。
「頭を上げてください。私はただ放っておけなかっただけですので」
「そうは言っても、あのまま放置されていればここも被害は甚大だった」
聞くところによると、魔獣が頻繁に出現するようになって物流にも影響が出ていたらしい。
それで、この街はどこか活気に欠けていたのだろう。
「被害が少なくてよかったです。我々は少し先を急ぎますので、申し訳ないですがこれで」
「ああ、何かあれば私も力を貸そう。これでも皇国では少しばかり力はあるのでな」
「感謝します」
そう言うと、ヴィムたちはセレンの街を後にした。
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