第70話 領主邸

 応接間でしばらく待っていると40代半ばの男性が入ってきた。


「お待たせして申し訳ない」


 ヴィムたちはソファーから立ち上がろうとした。


「いやぁ、そのままで構いませんよ」


 立ちあがろうとするのを手で制止すると、ヴィムの対面のソファーに腰を降ろした。


「私、ここハイムの街を国王陛下より任されております、ベルントと申します。子爵位を頂いております」


 そう言うと軽く頭を下げた。


「ヴィム・アーベルです。Sランクの冒険者をしております」

「存じておりますよ。色々ご活躍をされているとか。ハイムにはどういったご用件で?」

「新しく見つかった迷宮の調査をしに来ました。明日から調査に入ろうかと思っています」


 ヴィムは早速、明日からハイムのギルド支部に行って通行証をもらってこようと思っている。


「ああ、推定ランクがSの所が見つかったらしいからな。無用な心配かとは思うが気をつけてくれよ」


 確かに並の冒険者では推定Sランクの迷宮には立ち入っただけでも目眩がするほどである。


「ありがとうございます」

「そういえば、今日の宿は決まっているのか?」

「いえ、まだ決まっていませんが」


 ヴィムはこの後、適当に宿を決めようと思っていた。


「それなら、ここに泊まっていくといい。部屋は余ってるし、妻も紹介しよう」

「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせていただきます」


 せっかくのご好意を無碍にもできないだろう。


「それでは部屋を用意させよう」


 ベルント子爵は従者に指示を出した。

そして、しばらくすると従者が戻ってきた。


「お待たせいたしました。お部屋の準備が整いました」

「案内してやってくれ」

「かしこまりました。ご案内いたします」


 ヴィムたちはその従者についていくようにして屋敷内を歩いた。

しばらくあるて来客用の部屋に案内される。


「こちらをご自由にお使いください。何かありましたらお申し付けください。ご夕食の時間になりましたら呼びに参ります」

「ありがとうございます」


 ヴィムたちはそれぞれに割り当てられた部屋に入った。


 おそらく、貴族や豪族などが使う部屋なのだろう。

豪華な調度品が壁側に並んでおり、一人では持て余すくらいの広さの部屋の中央付近には天蓋付きのベッドが配置されている。


「とりあえず、横になってるか」


 ヴィムはブーツを脱いでベッドに寝転んだ。

昼寝をしたので眠気は来ないが、横になっているだけでも随分と楽になる。


 少し横になってからヴィムは窓の外を眺めた。

冒険者の装いをした人たちが通りすぎていく。


 流石は冒険者の街だ。

ただ、この風景も嫌いではないと思う。


「俺も頑張らなきゃな」


 そんな思いを抱きながらヴィムは窓から視線を外した。

その時、部屋をノックする音が響いた。


「ご夕食の準備ができましたので、お呼びに参りました」

「分かりました」


 ヴィムはブーツを履き直すと、部屋を出た。

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